平成が終わりつつある今、その時代を振り返ると、世界も日本も、極端な主張をする扇動家に振り回されるようになってきたと言えるかもしれない。国際日本文化研究センター教授の井上章一氏は、「平成」を振り返るにあたって忘れてはいけない一冊として、新しい史料と史観をもとにフランス革命について書かれた小説を挙げた。
●『小説フランス革命』1~18/佐藤賢一著/集英社文庫/480円~+税
一九八九(平成元)年は、フランス革命がはじまった、その二百年目になる。フランス本国では、その関連事業がいとなまれた。日本でも、革命を再考する企画が、いくつかもよおされている。
フランス革命は、ながらく階級闘争という理屈で説明されてきた。日本のいわゆる戦後史学も、おおむねその線で、これを読みといてきたものである。のみならず、史学の枠をこえ、ブルジョワ革命の典型としてうやまってきた。不徹底な変革でしかない。そうみなされた明治維新とくらべ、理想化もしてきたのである。
しかし、平成のはじまったころには、その見取図が決定的にくずれていく。階級闘争の成果だとする古典的な歴史観は、史学界の片隅においやられた。日本でも、平成の時代をつうじて、その偉光はおとろえていったはずである。
佐藤賢一の『小説フランス革命』は、二〇〇七(平成一九)年から書かれだした。ブルジョワ革命説が崩壊した今、あれはなんだったのかと、あらためて問いなおす。そんな試みであったと思う。