病気になると、人は否応なしに選択を迫られる。「病院に行くか、行かないか」「行くなら近所のクリニックか、都市部の大病院か」「がんになったら切るか、切らないか」……。
どちらかに決断すると、またその先に新たな選択肢が現われる。しかも困ったことに、後戻りもやり直しもできない。
いざという時は突然訪れる。だが、丁半博打に自分の体を委ねるわけにはいかない。きちんとした根拠に基づいて選ばなければ、寿命を縮めることになる。
作家のなかにし礼氏は近著『がんに生きる』(小学館)の中で、自身がステージIII(5年生存率が約30%)の食道がんと診断された際、医師からこう告げられたと明かしている。
「すぐ切らなきゃ駄目な状態だから、来週切りましょう」
普通なら“素直”に医師の指示に従い、手術を受けることだろう。だが、なかにし氏は違った。
手術を断わり、どうにか切らないで済む方法はないかとほかの医師を何人も訪ね回った。やがて陽子線治療という治療法に辿り着き、がんを寛解(※症状が断続的に治まっている状態)へと導いたのである。