年が明けて早々、インフルエンザにかかってしまった会社員のA子さん。39度近い高熱だ。会社に連絡すると「早く病院へ」と言われ、フラフラになりながら、病院の待合室で長時間待たされた末、タミフルを処方してもらった。
「これで熱が下がる」とひと安心して帰宅したA子さんだが、実は、こんな治療を受けているのは日本だけだと新潟大学名誉教授の岡田正彦医師は言う。
「欧米ではインフルエンザにかかっても、“基本的に薬はいらない”とされています。タミフルをのんでも、期待できる効果は“1日早く熱が下がるだけ”ですから。そのため、アメリカの医療専門のホームページには、『病院に行くと他の病気に感染するリスクが高いから家で寝ていなさい』と書いてあるほどです。
日本では学校や会社から半ば強制的に病院に行くように言われ、検査でインフルエンザだとわかると、タミフルや新薬を処方されます。非合理的な慣習としか言いようがありませんが、病院や製薬会社にとってはビジネスなので、誰も正そうとしないというのが現実です」
インフルエンザ予防のためにワクチン接種が推奨されているのは日本も世界も同じ。しかし、治療となるとまったく逆で、世界中のタミフルの約8割は日本で消費されている。タミフルが入院や合併症を減らす効果はないとの研究も発表され、2017年7月には、WHO(世界保健機関)の「必須医薬品」リストで、「保健システムに最低限必要な薬」から「補足的な薬」に格下げされた。
「日本人は過剰医療の傾向が強く、先進諸国に比べて病院に行く回数がダントツに多い。病院に行くと必ずといっていいほど薬を処方されるので、当然、服薬量も多くなる。生活習慣の改善で解決できるようなことでも、検査でちょっとでも正常値を外れると、医師は“念のため”とすぐに薬を処方します。高血圧や糖尿病の薬のように、副作用のある薬をずっとのみ続けなければならないケースも少なくありません」(岡田さん)
アメリカの研究によれば、「病院の閉鎖」と「地域住民の入院率・死亡率」の間に因果関係はないという。つまり、地域に病院がなくなっても、人々の健康状態は良くも悪くもならない可能性が高いのだ。それは医療経済学の中では定説なのだが、日本ではなぜかまだ浸透していない。
「日本に『予防医療』という考え方が定着していないからです。たとえば北欧では、頻繁に健康教室が開かれ、国を挙げて予防医療を徹底しています。病院に行く前に、保健師のような人に電話相談ができるサービスがあり、症状を説明すると、“すぐに病院で受診した方がいい”“その症状なら病院に行かずに家で温かくして寝ている方がいい”などとアドバイスしてくれる。
ところが日本では、予防医療に力を入れず、“具合が悪くなったら病院に行けばいい”という考え方一辺倒です。医師や病院、製薬会社にとっても、そちらの方が儲かりますから」(岡田さん)
※女性セブン2019年1月17・24日号