【書評】『スクリーンの裾をめくってみれば 誰も知らない日本映画の裏面史』/木全公彦・著/作品社/2000円+税
【評者】与那原恵氏(ノンフィクションライター)
ひとつのことを突きつめて、熱っぽく語る人の文章につよく魅せられる。映画評論家・ライター・DVDコーディネーターとして活躍する著者は、戦後日本映画のなかでも、主にピンク映画と呼ばれる独立系成人映画周辺をいきいきと浮かび上がらせる。
〈日頃から、映画史とは著名な監督や有名作だけで成立しているものではなく、無数の胡散臭いものや猥雑なものがごった煮になった混沌の上に成立しているものだと思っている〉。本書は映画史に埋もれたエピソードの発掘にとどまらず、背景にある戦後日本社会の風景であり、何よりも魅力的なのは、得も言われぬ強烈な個性を持つ映画人たちの姿である。
日本にピンク映画が登場するのは、一九六二年の『肉体の市場』とされるが、それ以前、五〇年頃にはストリップやヌードを売り物にするエロ映画が製作されていた。さらには性教育映画、性病防止映画などが氾濫していったのは、教育的・啓蒙的映画という名目のもとに、観客が求めるエロを巧みに表現したからだ。実際、ストリップ劇場で映画上映と「実演」が行われ、摘発をくらってしまう。
しかし、そんなことにめげることもなく、あらゆる手段でエロ映画は上映されていく。あるアメリカ製短編エロ映画は、結核療養所から流出したものだったという一件や、米軍統治下にあった沖縄から「闇フィルム」が本土へと運ばれていたことなど、社会史としてもじつに興味深い。