日本では更年期障害への対処といえば、生活習慣の改善や漢方薬が主流。つらくても病院に行かず、「がまんしてやりすごす」という人も多い。“病院好き”の日本人には珍しい傾向だ。
一方、アメリカでは、薬で女性ホルモンを補うホルモン充填療法が広く行われている。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはこう語る。
「日本人はナチュラルなものが好きで、“不自然なもの”への抵抗感が強い。そのため、ホルモン治療に後ろ向きな患者さんが多いのです」
虫歯治療は、日本では虫歯を削って「銀歯」を入れるのが定石。だが、『やってはいけない歯科治療』(小学館新書)の著者で医療ジャーナリストの岩澤倫彦さんによれば、「銀歯」は、時代遅れの治療法だという。
「銀歯治療は、小さな虫歯でも、健康な部分まで大きく削って広げていました。また、長期間経過すると、銀歯と天然の歯の間に隙間が空いて、虫歯の再発が起きやすい。その結果、歯の寿命が短くなってしまうのです。一方、歯科治療先進国のスウェーデンでは、歯をなるべく削らない『コンポジット・レジン修復(レジン療法)』が基本です」(岩澤さん)
プラスチック系素材の「レジン」は歯の色に近い乳白色のペースト。虫歯部分だけを削り、レジンを充填して接着した後、LEDなどの光を当てて硬くするのが「レジン修復」だ。
「小さな隙間にも入り込んでピッタリと接着される『レジン修復』は、歯を削る量が最小限ですみます。この治療技術は1980年代にはすでに確立されましたが、日本では“欠ける、割れやすい”といって敬遠する歯医者が、今も少なくありません。実際は、臨床試験で銀歯と同等の耐久性が証明されています」(岩澤さん)
銀歯と違って、レジンは見た目も天然の歯とほとんど見分けがつかず、銀歯のような金属アレルギーのリスクもない。患者にとってメリットが大きい治療なのに、普及が遅れたのには理由がある。
「レジン修復は、手間と時間がかかりますが、保険点数がとても低い。一方、銀歯治療なら、歯型を取った後の作業は歯科技工士に任せるので、効率的です。つまり、レジン修復は、やればやるほど、歯科医が儲からない治療なのです」(岩澤さん)
患者ではなく医師の都合が優先された結果というわけだ。
ただ、そこには受け身で医師の言いなりになっている患者側の問題もある。前出の室井さんは、日本とアメリカの患者の姿勢の違いをこう指摘する。
「日本には世界でも希少な『国民皆保険』制度があり、誰もが安く、平等に治療を受けられます。だから“受けられる治療はどんどん受けよう”という意識になりやすい。一方、アメリカは民間保険なので、保険会社が病院側に無駄な治療を避けるように働きかけます。また、高額な保険に加入できない人は、医療費を少しでも減らすために“必要な治療”だけを受けたい。なので事前に“なぜこの医療を受けるのか”をよく考えますし、医師選びも能動的です。『食べログ』のように、医師の腕を評価するサイトさえ存在するほどです」(室井さん)
貧富の差によって受けられる治療に差がつくアメリカに比べ、誰もが少ない自己負担で治療を受けられる日本人ははるかに幸せだ。でも、そのために受け身になり、医師に言われるがままに「必要のない」「時代遅れ」の治療を受けているのだとしたら…。
患者である私たち自身も、医療のあり方を海外から学ぶべきなのかもしれない。
※女性セブン2019年1月17・24日号