観光スポットで人の温かさに触れるのは何より気持ちのよいものだ。しかし、世の中にはそれを逆手にとる連中も存在する。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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悪知恵が働くというべきか、卑劣というべきか──。とんでもない「押し売り」事件が起きたのは、四川省の自然保護区として知られる有名観光地。海抜4760メートルに位置する海子山景勝地は、チベット族の自治州として知られる壤塘県にある。
その観光コースに設置された一つの公衆便所が事件の舞台である。犯人グループは、公衆便所の前に簡易な店を構え、ご丁寧にも「トイレに行くには薬局店を通ってください」との看板を掲げていたという。
事件の詳細は、『成都商報』(2018年11月20日)が伝えた。タイトルは、〈観光地のトイレ前に漢方薬店、6万元(約96万円)の漢方を押し売り〉だ。
被害者の一人、顔さんは同じ四川省東部にある街、達州市から観光に来ていた。車での移動中の休憩でトイレに立ち寄ろうとして、看板に従い漢方薬店に入った。
するとそこにいた女が、なぜか親しく顔さんに話しかけてきて、「ここの薬がとても効くから、毎回買いに来ている」といって目の前で一袋薬を買っていった。
顔さんも、そんなに効くなら、と薬を注文したところ、いきなり6万元を請求されたというのだ。
そもそも旅行中に6万元をポンと支払わせようという発想が異常だが、店の男は「薬剤を粉末にしてしまったから返品はできない」との一点張り。仕方なく顔さんは6万元を支払い、その後に警察に駆け込んだのだった。
驚いたのは、一時的とはいえ、顔さんが支払ったということだ。詐欺グループにしてみれば、こういうケースがあるからやめられないということか。
結局、警察はまもなく詐欺グループを逮捕。捕まえた詐欺師たちから6万元を回収して顔さんに返されたという。観光地でうっかりトイレにもいけないという話だが、急を要する人にはさらに恐怖の話である。