小林麻央さん(享年34)や樹木希林さん(享年75)の例をあげるまでもなく、多くの女性の命を奪った病気として予防の機運が高まる乳がん。2014年の罹患数(厚労省調べ)は、女性の1位になっている。医療ジャーナリストの村上和巳さんはこう語る。
「乳がんは、閉経に関連して50才前後が最もそのリスクが上昇するという研究結果がある。そして30代までは極めて少ないことから、40代から乳がん検診を受け始めることには合理性があります」
国立がん研究センターの検診研究部長で医師の中山富雄さんも続ける。
「40代以降は、マンモグラフィーは2年に1回やるべきです。上限は75才くらいでいい。乳がんは、進行が比較的遅く、すぐ死ぬ病気ではありませんから、75才まで受けていれば85才くらいまでは大丈夫。
平均寿命から考えると、それ以上になってから検診を受けても、あまり意味がない。また、30代でマンモグラフィーを受けても、見つかるのは乳腺症ばかりで、乳がんはまれ。40代になってからで問題ありません」
一方、乳がん検診の中でもまだ検討が必要だと中山さんが指摘するのは「乳房超音波検査」。“痛みのない最新の検査方法”とされている。
「これは日本でしか流行っていないもので、実施する医師の技量差によるところがものすごく大きい。乳腺をちゃんと診られる医師が日本にはあまりいないのです。まだ乳腺の多い40代の女性で、特に乳がんが心配なら専門医を探して診てもらってもいいが、一般的には不要です」(中山さん)
とはいえ、マンモグラフィーも見逃しはゼロではない。実際、海外の最新研究では、セルフチェックの大切さが主張されている。2年に1度の検診に加え、日々の自己管理が求められる。
“最新”を掲げるのは、これだけではない。最近よく耳にする「脳ドック」や「腫瘍マーカー」といった、いかにも新しくて病気が見つかりそうな検診も、意味がないという。
特に危険なのが脳ドックだと新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんは言う。
「そもそも脳ドックは日本にしかない検査。CTスキャンやMRIを使って脳をチェックするという検査ですが、まさに“ビジネス”。これを受けた人が本当に長生きしているというデータがない。そして、かなりの割合で、さほど問題のない小さな動脈瘤をも見つけてしまうのです」
そして、ここで問題になるのが「過剰医療」だ。
「結果を受け、何かあったら困るので、医師は手術で動脈瘤を取ることを勧めます。患者としても、せっかく見つかったのだからと手術を受けようという人が多い。ところが手術がうまくいかずに神経麻痺が起きたり、死亡する人も少なからずいる。裁判になった例もあるのです」(岡田さん)