ものの価格は需要と供給で決まる。とはいえ、外資系企業に勤めるビジネスパーソンより家政婦のほうが高賃金と聞くと、首を傾げたくもなる。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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良いことか、悪いことか──。いずれにせよ中国での賃金の高騰が話題となっている。
なかでも昨年から話題となっているのが家政婦の賃金の高まりである。ベテランで評判の良い家政婦でも頼もうものなら、軽く1万元(約16万円)を超えてしまい、場合によっては1万4000元(約22万4000円)にもなるというのだ。もはや気軽に雇う感覚ではない。
そんな中国のいまをレポートしたのは、南京の『現代快報』(2018年12月9日)である。
冒頭に登場する南京在住の女性は、外資系企業に勤める、いわばエリートだ。出産を控えて数か月だけ家政婦を雇おうと問い合わせたところ、業者から月額1万4000元だと告げられたという。
「第一子を出産した10年前は、3000~4000元(当時のレートで約4万3400円から5万7800円)でした。いま私は外資系企業で働いて、月収は約1万元ですから、私より4000元も高いんです」
と『現代快報』の記者に語っている。
南京市内では、もはや1万元以下の家政婦はいないという。
これは通いのケースだが、住み込みの家政婦の場合も、値段の高まりが顕著だという。面白いのは、月5000元(約8万円)で契約しても、もっと高い値段で引き抜かれ、数か月でやめてしまうケースが続出しているのだ。
背景には何があるのか。一つには共働き夫婦の子育ての手が足りないことや年老いた両親の世話などに家政婦需要が高まり、家政婦の供給が追い付かないことだ。実際、江蘇地区には約35万人の家政婦が働いているが、実需に対して約70万人不足しているというのだ。
そしてもう一つが、昨年8月に導入された最低賃金が要因としてあるという。南京市の水準で1時間18.5元(約296円)と、日本の状況から比べると決して高くはないが、影響は少なくないようだ。これは中国が、経済のけん引役として個人消費を中心に据えようとする政策の反映でもある。
興味深いのは、いま家政婦の年齢の中心は40代から50代で、その下の世代には家政婦がいないという事実だ。つまり、中国も早晩、外国から大量に人を受け入れなければならなくなるのだ。