「アルコール依存症は、お酒を飲めば誰でもなり得る薬物依存症の1つです。今は問題がなくても、お酒を毎日飲み続けていれば、どんな人でもなる可能性があるんです」
そう話すのは、アルコール依存症の専門医で、『さくらの木クリニック秋葉原』院長の倉持穣さんだ。
酒は百薬の長ともいわれ、少量であればリラックス効果も期待されるが、多量に飲酒すると、コントロールが効かなくなる。ビールや日本酒などの酒類に含まれる純アルコール量は女性の場合、1日10gが適正。ビールならジョッキ1杯(350ml)程度が目安だ。
しかし、男性は60g以上、女性は40g以上で多量飲酒。つまり、アルコール依存症になるリスクが高まる。お酒の種類ごと「危険飲酒量の1日の目安」は、ビールがジョッキ3杯、日本酒が3合、ワインがグラス3~4杯(580ml程度)、缶チューハイが350mlで3缶、焼酎がロックで3~4杯(300ml程度)だ。
◆やめたくてもやめられないアルコール依存
アルコールは多量に飲み続けると、シンナーもしくは大麻などの違法薬物よりも精神的依存が高く、危険度が高い。
常にお酒がないと落ち着かなくなり、やめようと思ってもやめられなくなる。それがアルコール依存症の大きな特徴だ。
「アルコール依存症は別名『飲酒コントロール障害』といい、実は、毎日飲んでいる人だけではありません。飲まない時は平気でいられるのに、一度飲むと飲みすぎてしまい、懲りずに失敗を繰り返す人もアルコール依存症なのです」(倉持さん・以下同)
“懲りずに失敗する”とは、二日酔いで仕事に行けなくなる、意識をなくすほど飲んでしまう、どこででも寝てしまうなど、周囲に迷惑をかけるような状態に陥ることだ。
「飲む量をコントロールできなくなると、飲酒に対する脳内のブレーキが効かなくなります。ブレーキは一度壊れたら修復できないので、どんどん暴走していくのです」
そのため、常に酒がないと落ち着かない状態となり、精神的に依存してしまう。一度、陥ってしまうと蟻地獄のように抜け出すのは困難だ。
アルコール依存症患者を支援する自助グループ『全日本断酒連盟』の理事で、自身も長年、アルコール依存症で苦しんだ経験のある宮田由美子さんは、次のように語る。
「22才で銀行に就職。電話交換手をやっていた頃から、毎日、ビールなどを2ダース近く飲んでいました。この頃、電話交換手は、1時間おきに休憩があったのですが、そのたびに二日酔いで寝ている状態でした。周りからは酒臭いと言われていたようですが、そんなことは気にもせず、家に帰るとすぐに飲んでいました」(宮田さん)
何か大きなストレスがあったわけではない。ただ、毎日、酒を飲む習慣があっただけだと宮田さんは言う。