一度なってしまったら、完治することがないのが、アルコール依存症だ。アルコール依存症の専門医で、『さくらの木クリニック秋葉原』院長の倉持穣さんはこう語る。
「安定剤の1つである渇望抑制剤や、お酒を飲むと気持ちが悪くなる抗酒薬はありますが、完治するものではありません。一度、依存症になると現代医学では治すことができない。治療の原則は断酒の開始と継続しかありません」(倉持さん、以下同)
断酒は1人でできるものではなく、医師の定期的なカウンセリングや入院治療が必要となる。
「患者さんには、依存症とはどんな病気なのか、なぜお酒を飲むようになったのかなど、認知行動療法を行います。そこから断酒会への参加を進めます。断酒会は、同じようにアルコール依存症になった仲間同士で自分のことをひたすら話す場所。仲間の前で自分の弱い部分をさらけ出すことで、お酒に依存していたのが、仲間を頼りにするようになりお互い助け合っていくようになります。そうすると、精神的にも安定し、お酒をやめられるようになる。そして、自分は周りに支えられていると気づけるようになる。お酒をやめることで、人間的に成長できたと言う人は多いんですよ」
ただし、断酒は1~2年続ければ終わりというものではない。死ぬまで、永続的に酒を断つことが必要だ。それには継続的に断酒会に参加する必要がある。10年、20年にわたる参加者は当たり前。30年以上参加している人も多い。
アルコール依存症患者を支援する自助グループ『全日本断酒連盟』の理事で、自身も長年、アルコール依存症で苦しんだ経験のある宮田由美子さんは、毎日、ビールなどを2ダース近く飲んでいた。自身の断酒経験を次のように振り返る。
「私が断酒に踏み切ったのは30代後半。2人の子供のために、やめなくてはと断酒会に参加しました。最初こそ抵抗感はありましたが、次第に通っていくうちに、同じ苦しみを味わった仲間同士だからこそわかり合えることがありました。この人たちがいるから、ひとりじゃないと思えたのです。37才で断酒して以来、69才になる現在まで一滴も飲んでいません。
一方で、何十年断酒していても、1回飲んだだけで、元どおりの依存症になってしまう人もいます。それを防ぐためにも、断酒会に通って、依存症であることを自覚し続けることが必要なのです」
依存症が治ることはなくても、生き方は変えられる。お酒がない生活に慣れればやり直しはきく。死を目の前にしても飲み続けるか、人生を再スタートさせるのか…それを選ぶのは自分自身なのだ。
※女性セブン2019年1月31日号