人生100年時代などといわれる中で、介護の問題は誰もが他人事でいられない状態となっている。中でも、高齢者の性の問題はこれまで触れられることがなかったゆえに、密かに悩む人が増えている。中高年の夫婦間のセックスレスが深刻化しているのだ。
田園調布学園大学名誉教授で臨床心理士の荒木乳根子さんが代表を務める日本老年行動科学会セクシュアリティ研究会の調査によると、配偶者の体に触れることさえしなくなっているという。
「日本はもともとハグやキスの習慣がありませんが、興味深いことに、独身者の恋人同士は結構、ベタベタと触れ合っているのです。結婚して子供ができると、男と女から父親と母親という関係になり、その役割を最優先する傾向がありますね。そんな背景が、夫婦間の肉体的接触に影響していると思われます。
そしていったん触れなくなると、スキンシップに対する抵抗感はどんどん増し、たとえば将来要介護状態になったとき、身体介護をするにも受けるにも抵抗感が強まるかもしれません。そんなことからも、中高年のうちから継続して肌の触れ合いをおすすめします」
また、こんな日本の慣習の中で親の性を見ずに育った子世代は、老親の恋愛には大いに戸惑う。ちょうど今の80代以上は、“生殖目的以外の性行為はふしだら”という封建的な価値観の影響を少なからず受けている年代でもあり、それが“高齢者の性”がタブー視される背景にあるという。
「老いた親を見守る立場になったら、少し視点を変えてみてください。“性”には、コミュニケーションとしての役割もあります。高齢になり、孤独を感じ、認知症なども出てくると自分が不確かな存在になる。そんなとき、誰かを好きになり、1対1で触れ合えると、自分が取り戻せるのです。そんな姿を認めて、万一、トラブルになったときも否定せずに、親の孤独を埋めて寄り添ってあげてください」(荒木さん・以下同)
そして昔の恋愛話を聞いてあげることも、実は大きな意味があるという。
「健全で幸せな人生のために、老年期は自分の人生を振り返り、肯定することがとても大切なのです。つらいこともあったが、おおむね有意義で幸せな人生だったと。ワクワクときめいていた恋の思い出話を聞いてあげることは、まさに幸せな人生を肯定する手助けになるのです」
※女性セブン2019年1月31日号