厚生労働省が1月15日に公表した「就業者長期推計」によると、高齢者人口がピークを迎える2040年には、就業者の4人に1人が60歳以上になるという。学生バイトの定番だったファミレスやコンビニでも、高齢店員が増えている。安倍政権は高齢者の就業を推進しているが、経営コンサルタントの大前研一氏は、これは「政府が年金政策の失敗のツケを国民に回そうとしているだけ」と指摘する。
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「70歳までの就業機会を確保する」──安倍晋三首相は自ら議長を務める「未来投資会議」の席上、こう述べた。『日本経済新聞』(2018年10月23日付)によると、65歳までの継続雇用を企業に義務付ける制度はそのままで、65歳以上の「シニア転職」を増やすのだという。会議では「70歳就業」に伴う年金制度についても話し合われ、現在65歳の受給開始年齢を高齢者が自ら選べる範囲を広げること(70歳以降に受け取るなど)も検討するという。
だが、騙されてはいけない。これは「65歳以上になっても働き続けて社会保障費の抑制に協力しろ」「年金は当てにするな」というメッセージであり、言い換えれば、もう定年退職後は年金だけに頼っていたら生活していけない時代になる、ということである。要は、政府が年金政策の失敗のツケを国民に回そうとしているだけの話なのだ。
「高齢社会白書」(2017年版)によると、高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、これに18歳未満の未婚者が加わった世帯)の平均年間所得(2014年)は297.3万円。これは、それ以外の世帯(母子世帯を除く)の平均644.7万円の5割弱でしかない。しかも、高齢者世帯の68%は総所得に占める公的年金・恩給の割合が80%以上となっている。
つまり、いま50代以下の人たちの大半は、この先、「生涯現役」や「雇用改革」を名目に年金の支給額が減額されたり受給開始年齢が引き上げられたりしたら、いわゆる「下流老人」になってしまい、場合によっては「老後破産」に追い込まれかねないのだ。