年金だけではまともに暮らせなくなりつつある中で、豊かで安定した老後を迎えるためには何歳になっても「稼ぐ力」が必要となる。その場合、独立して事業を始める「起業」も有力な選択肢の一つだ。『50代からの「稼ぐ力」』を上梓した経営コンサルタントの大前研一氏が、定年後に始める「シニア起業」のポイントを解説する。
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実は「起業」は決して難しいことではない。年齢も関係ない。シニア世代であろうと、起業のチャンスはいくらでも転がっている。
ただし、シニアが起業する場合、注意してほしい点がある。
一つは、複数の他人が絡んだ仕事をしないということだ。自分だけでできる、あるいは家族や自分の親しい友人1人を加えればできる、という仕事に絞る必要がある。これはお金もそうだ。借金をしてまでやってはいけない。あくまでも自己資金の範囲で始めるべきである。
たとえば「おいしい地鶏」を売りにレストランを始めるとしよう。そうすると、地鶏を優先的に卸してくれる養鶏業者と契約する必要がある。果たしてこの養鶏業者が、一定のレベル、一定の量の地鶏を卸し続けてくれるかどうか。複数の他人が介在するとはそういうことで、ここにリスクが発生する。関わった人間の数だけ、リスクが大きくなるのだ。また、仮に成功を収めた場合でも、大手企業が参入してきてやり方を真似られたら、太刀打ちできない。
体力の問題もある。20~30代ならば、徹夜もいとわないだろう。何日か寝ずに働いたとしても、何とかなる。マッキンゼー・アンド・カンパニーの後輩の南場智子氏は、37歳の時にDeNAを起業した。最初の頃はオフィスに寝袋を持ち込み、会社に泊まり込んで働いていたそうだ。1日24時間を会社のために捧げたのである。
だが、これは30代だから可能だったことであり、シニアの場合はそうはいかない。同じように働いたら、体を壊して入院してしまうかもしれない。自分は1日何時間働けるのか。12時間なのか、それとも8時間なのか。無理しないで働くことができる時間を自分で設定し、それを維持するようにしなければならない。