すぐに治るけれど、胃が痛い、もたれる、不快症状が続く──そんな“なんとなく不調”を抱える“胃弱”の人が今、増えているという。
厚生労働省が2010年に行った「国民生活基礎調査」によれば、明らかな胃の不調を訴える人は、50代女性で、3人に1人に達した。
「吐き気、胃もたれ、膨満感などの比較的軽い胃の不調を含めると、更年期以降の女性の6~7割に見られます」
こう話すのは、代官山パークサイドクリニックの院長で漢方内科医の岡宮裕さんだ。
更年期でホルモンバランスが崩れると、自律神経の働きも乱れ、知覚過敏になる。そうなると、胃酸が少し多めに分泌されただけで、その刺激で胃痛などを感じるのだ。また、老化により筋力が低下すると、胃の入口の筋肉の締まりが悪くなり、胃から食道へ胃液が逆流する「逆流性食道炎」になりやすくなるという。
「逆流性食道炎は、40才以降、確率が上がります。胃に少しでも不調を感じたら、迷わず医療機関を受診してほしい。大病が隠れている可能性もあるからです」(岡宮さん)
胃カメラなら、胃潰瘍、胃がん、逆流性食道炎、ヘリコバクター・ピロリ菌の有無などがすぐにわかる。特に、胃の不調で気をつけたいのは、ピロリ菌。これは強い酸の中でも生きられる強じんな菌で、感染すると、慢性胃炎、胃潰瘍、萎縮性胃炎、そして胃がんなどの原因となる。
「直接的に胃の病気ではないけれど、胃の不調で血液検査やエコー検査を受けた結果、胃のまわりの臓器である肝臓や胆のう、膵臓の病気が発覚することも」(岡宮さん)
ちょっとした不快症状でも命にかかわる病気が潜んでいるかもしれないのだ。さらに、巣鴨駅前胃腸内科クリニックの神谷雄介さんは、別の可能性を指摘する。
「胃の検査をし、異常がないからといって健康というわけではありません。こういった胃の“なんとなく不調”は、機能性ディスペプシア(FD)の可能性が高いんです」
FDとは、2013年から保険適用された胃の病気で、一言でいえば胃の機能異常。胃が本来の役割を果たせていないために、痛みやもたれなど、なんらかの症状が出る。
胃の本来の役割とは、「貯蔵」「消化」「ぜん動」の3つ。まず、食べた物を一時的に貯蔵するために胃を膨らませる。次に、胃酸を出してたんぱく質を溶かし、食べ物を胃液と混ぜてミキサーのように細かく砕く。そして腸で消化吸収されやすいよう細かくドロドロにして十二指腸に送り出すのだ。この過程のどこかで障害が起こることで、胃の機能異常が起きる。