北方領土返還の期待が漂うが、米露関係が悪化する中、プーチン大統領は返還後の2島に米軍基地を設置しない確約を要求している。ロシア事情に詳しい名越健郎氏(拓殖大学海外事情研究所教授)は、日本政府はあくまで強気に交渉へ臨むべきだと指摘する。
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交渉の場外戦も始まっているが、プーチン大統領は、「2島の主権を渡すとは56年宣言(日ソ共同宣言)には書いていない。すべては交渉対象だ」と自動的な引き渡しではないことを強調した。最終的には引き渡すにしても、経済協力や安全保障、島民への補償で執拗な条件闘争を挑む可能性がある。
仮にロシアが2島の主権を渡さず、施政権のみ移管と主張するなら、日本側は譲歩せず、本来の「4島」に戻るべきだろう。
交渉では逆に、主権のみ日本に渡し、ロシア人約3000人が居住する色丹島の施政権はロシアが保有し続ける形も考えられる。しかし、ロシア側が50年、100年といった長期の施政権に固執するなら、返還の意味がなく、交渉を打ち切るべきだろう。
対日強硬派として知られるラブロフ外相は会見で、第二次大戦の結果容認が交渉の前提だと強調した。平和条約でソ連の北方領土領有を「合法」「正当」などと規定するなら、ソ連による中立条約違反の対日参戦、シベリア抑留、旧満州での邦人迫害など終戦前後の「火事場泥棒」が一気に「無罪」となりかねない。ロシアが4島占領を合法と平和条約に盛り込むよう要求するなら、安易にそれを受け入れてはならない。