新たな時代がまもなく訪れるいま、我々はどんな書物から現代日本を考えれば良いのか? 歴史研究家の本郷和人 (歴史研究者)が選んだ中世史の名著6冊を紹介しよう。
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「日本は、古代からひとつの言語を使い、ひとつの政権が支配し、ひとつの歴史、伝統を共有するまとまった国家だった」という言説がある。だが、それは間違いだ。そのようなまとまりのある国家が出現したのは、豊臣秀吉が1590年に、東国を支配していた北条氏を破り、全国を統一して以降だ。それ以前鎌倉幕府の成立から戦国時代の終わりまでの日本の中世を特徴付けるのは「分裂」である。
その観点から日本の中世を知るための名著6冊を選んだ。「どの国のどの時代も現代史である」という言葉がある。「分裂」の時代だった日本の中世を現代日本の鏡にすることで、統一された国家の長所と短所を考えてほしい。
(1)『鎌倉時代』は鎌倉時代論の草分け的な書。戦前の実証史学は幕府研究は蓄積していたが、朝廷については解明していなかった。著者の龍粛は戦前から、膨大な史料を読み込み、朝廷の状況を分析した。その結果、鎌倉時代においては武力を表看板とする幕府と、政治、経済を表看板とする朝廷の、ふたつの政権が並立し、それが密接に関わり、交渉していたことを明らかにした。それを戦後の1957年にまとめたのが本書である。60年余り経つが、いまだに読む価値がある。
著者は、朝廷の状況を明らかにしたことで戦前の「皇国史観」に寄与した。だが、戦後に「皇国史観」が否定されても、実証的な手法によって導き出した歴史像を変えなかった。その姿勢に研究者の良心を見ることができる。