われわれが日々口にする野菜も、実は地域によって消費量にかなり差が出るものだという。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。
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冬を代表する食べ物と言えば鍋物。それだけに鍋物に入れる具材への支出は、冬場にぐんと伸びる。総務省の家計調査(二人以上の世帯。2015~2017年平均)によると、鍋物野菜の代表選手、白菜への消費支出は夏場には月間50円を切るが、肌寒くなる秋口から支出が急増し、冬場には月額200円を超える。
ところが、今年は生産量が潤沢なのに、暖冬の影響もあって消費動向が鈍い。東京中央卸売市場における主要な野菜の入荷量と平均卸値の価格を見ると、全般に入荷量は好調だが、鍋物野菜の平均卸値は下落している。白菜は前年同期比で入荷量プラス27%だが、卸値はマイナス77%。大根は入荷量プラス30%で卸値マイナス57%。ほかキャベツ、ネギ、えのきだけなどの鍋物野菜が軒並み入荷量増、卸値下落となっている。
となれば、当然店頭価格もお値ごろになる。都内のスーパーでは前年同時期よりも「3~4割安くなっている」というが、それでも鍋を囲む機会が少ないからか、品物の動きは鈍い。
総務省の家計調査の対象となる都市は、全国の都道府県庁所在市及び政令指定都市だ。白菜を多く消費する都市の上位は軒並み鍋どころ。前出の2015~2017年の調査平均では、消費上位5都市は堺市、京都市、神戸市、北九州市、大阪市の順。堺市、大阪市を擁する大阪府は「てっちり鍋」「はりはり鍋」、神戸市の兵庫県では「ぼたん鍋」といった名物鍋がある。京都なら「鳥鍋」、北九州なら「もつ鍋」などそれぞれの地域に独自の鍋がある。
他の調査でも、関西圏は白菜の消費が群を抜いている。2017年の家計調査(総世帯)では全国平均は1201円だが、近畿圏の平均は1587円。京都市1728円、奈良市1725円、和歌山市1687円、大阪市1532円。いずれも、全国平均よりも3~4割消費支出が多い。鍋料理にまつわるさまざまな過去の調査でも、鍋料理の頻度は関東よりも関西のほうが高いという結果が出ている。白菜消費をけん引しているのは、関西なのだ。
逆に関東のほうが消費をけん引している野菜もある。サラダのような生食に使われることの多い、レタスやトマトといった野菜だ。レタスの消費支出の全国平均は2035円だが、関東は2341円(近畿2002円)、トマトは全国で6656円のところ、関東では7521円(近畿6826円)と関東圏が強い。とりわけ東京9254円、さいたま市9180円と首都圏人はトマト消費についてはカネに糸目をつけない様子が窺える。
もっとも家計調査は使い方までは調査しておらず、レタスやトマトを生食用と定義づけるのは早計に過ぎるかもしれない。なぜなら昨今では、新感覚の鍋の人気も高まっているからだ。例えばレタスしゃぶしゃぶ、例えばトマト鍋といった鍋の人気も高い。万が一かもしれなくとも、こうした鍋がトマトやレタスの消費を押し上げている可能性だってゼロではない……かもしれない。