「呼称問題」はメディアにとっては鬼門ともいえるものである。新聞記者たちの“表記ルールブック”とも言える『記者ハンドブック』(共同通信社刊)によると、敬称は原則として「氏、さん、君、ちゃん」で、子どもの場合、中学生以上は男女とも「さん」。一方、〈敬称を付けない場合〉として〈競技に即した1面、総合面、運動面のスポーツ選手、芸能欄の芸能人〉などと記されている。だから「スポーツ選手と芸能人は呼び捨て」で報じられているのだ。厄介なのは、スポーツ選手と芸能人が引退したら「氏」か「さん」になるという慣例である。
芸能人が事件を起こした際も複雑になってくる。2016年、宿泊先のホテルの従業員に対する強姦致傷容疑で逮捕(不起訴)された高畑裕太の場合、逮捕直後は「容疑者」がついたが、示談が成立し釈放され、芸能活動は休止に。その後の呼び名で混乱が発生した。
「もはや容疑者ではないものの、容疑者から急に『さん』というのも抵抗感はあった。だが、活動休止というか事実上の芸能界引退のようなものでもあったため、もはや一般人になった人物に対し呼び捨てもヘンだった。『高畑裕太元俳優』など苦肉の策をしようかと思ったが、これも過去に逮捕や書類送検があった後の『稲垣メンバー』やら『布袋ギタリスト』『和泉狂言師』『島田司会者』『小泉タレント』みたいな違和感がある。結局、“明確な引退ではない”と判断、まだ芸能人扱いということで“呼び捨て”になった」(雑誌編集者)
ちなみに『記者ハンドブック』によれば、〈逮捕段階から起訴時点まで〉は〈氏名の後に「容疑者」を付ける〉。ただし書類送検や略式起訴、起訴猶予、不起訴処分の場合は「肩書」または「敬称(さん・氏)」を原則とすることになっている。「島田司会者」のケースなどがそれにあたり、書類送検だから「肩書」である「司会者」が付いたのだろう。
そうした中、最近呼称に悩むのは「2人の小室」だという。ウェブメディア編集者はこう語る。
「2017年に眞子さまの婚約内定者として小室圭さんが出る前は、読者にしても我々制作者にしても『小室』でイメージしたのは圧倒的に小室哲哉氏でした。圭さんが出てきた時は、『小室さん』=『小室圭』で、『小室』=『小室哲哉』でしたが、2018年に哲哉さんが不倫疑惑が報じられた後、芸能界を引退し、一般人になったところでご両人の呼称をめぐり我々編集部の中ではどうすべきかが議論になりました」
現在、同編集部では他のメディアの呼称の情勢も見ながら「圭」さんのことを「小室さん」と呼び、「哲哉」さんのことを「小室氏」と呼ぶ使い分けがされているという。とはいっても、これら呼称については当人が持つ雰囲気が左右するのだともいう。前出のウェブメディア編集者はこう語る。
「小室圭さんのことは『小室さん』と呼ぶことにしました。これは、前例として、紀宮さま(現黒田清子さん)と結婚した黒田慶樹さんのことは『黒田さん』と婚約内定時に呼び、今でもそう呼んでいるからです。だから、現在時の人である小室圭さんと分けるため、小室哲哉さんのことは『小室氏』と呼ぶことにしました。しかし、引退したミュージシャンという意味では安室奈美恵さんのことは『安室氏』とは呼ばず『安室さん』です。三浦百恵さんも『百恵さん』と書くことが多い。結局、“なんとなく”決まっているのが現状です…」
なかなか歯切れが悪い説明だが、メディア業界の「呼称」には明確な使い分けはない、というケースが多いのだろう。