「長寿村」と呼ばれる小さな集落が、イタリア南部にある。人口700人、10人に1人が100才以上であり、そのほとんどが心身ともに健康に暮らしているこの村は、これまで幾度となく、長寿の秘訣をひもとくための調査の対象になってきた。
実際、「村で採れたオリーブをよく食べることが理由」「気候も影響しているのでは?」「ストレスのない暮らしが秘訣ではないだろうか」など、諸説発表されている。
その中でも、もっとも新しく、また多くの注目を浴びているのが、米カリフォルニア大学が発表した「長寿村の住民は『血管年齢』が若い」という研究結果だった。通常であれば高齢になるにつれ衰えがちな血管が、長寿村に住む高齢者たちは非常に若く保たれており、中には20代と同等の血管を持つ人もいたという。
「血管の若さは健康と密接な関係がある」──そんな仮説が、医師や研究者たちの間で話題となり、調査が進んでいる。
自治医科大学名誉教授で新小山市民病院院長の島田和幸さんが解説する。
「皮膚が年齢とともに老化していくように、年を重ねれば血管もまた体の中で確実に古くなっていきます。皮膚は老化しても命に影響を及ぼすことはありませんが、血管の老いは直接、病気に関係します。だからこそ自分の血管年齢を把握し、対策をとることが必要なのです」
最新の知見により、血管は“パイプ”の役割のほかにもさまざまな機能を持ち、内臓をはじめとした体の各部位に大きな影響を及ぼしていることが明らかになってきた。
つまり、せっかく心臓が送り出してくれた血液も、血管に異常があったり、老朽化して機能が衰えたりしていれば、体に悪影響を及ぼすことになるわけだ。
肌のように目に見える場所で、自分でチェックできるなら別だが、体内の異常や老いは、自覚することが難しい。しかし、1日10万回も心臓が動くうち、音もなく、確実に血管は老いてゆくのだ。
◆ボクサーのジャブを脳に受け続ける
見えないからこそ恐ろしい「血管の老い」だが、そもそもそれを測る「血管年齢」とは何なのか。
約20年にわたって、血管年齢を研究している産業技術総合研究所(茨城・つくば)の人間情報研究部門主任研究員・菅原順さんが解説する。
「本来はしなやかである、大動脈や頸動脈などの 『血管の壁』は加齢によって次第に硬くなっていきます。その進行度合いを、“年齢”というなじみ深い指数で表したものが『血管年齢』なのです。過去に蓄積された多数の測定データから、『血管の硬さの指標がどのくらいならば、何才に相当する』と年齢に当てはめているわけです」
当然、「血管年齢」の高さと病気の罹患リスクは比例する。
「血管年齢が高くなるほど心臓や血管に関係する病気になる可能性が上がります。つまり、自分の血管年齢を知ることは、現時点でどの程度、病気になるリスクがあるのかを知る目安にもなるのです」(菅原さん)