三重県鳥羽市の相差地区。ここでは、今でも海女による素潜り漁が盛んだ。この地区には、採れたばかりの新鮮な海の幸を振る舞う「海女小屋」があり、海女の装い「磯着」をまとった中高年の女性たちが忙しそうに立ち回り、観光客の世話を焼いている。衣装の手ぬぐいからのぞく顔は、どの女性も肌つやがよく、若々しい。そして見る限り、太った人もいないようだ。
鳥羽市立海の博物館の調査(2017年)によれば、現役の海女は660人で、平均年齢は65.7才、最高齢は85才というから、高齢化は否めない。
しかし、それと“反比例”するかのように、海女たちの血管年齢は若いというのだ。
産業技術総合研究所などのチームは2015年、三重県志摩・鳥羽地区と千葉県南房総市の海女115人を対象に動脈の壁の硬さから血管年齢を測定。すると、実年齢より平均で11才も若いという結果になった。中には59才(当時)で血管年齢が19才という「スーパー海女」までいたというから驚く。
今回、話を聞いたのは、20才で海女になり、今も現役で相差地区の海女頭を務める中村美智子さん(66才)。実年齢より15才も若い血管年齢を持つ中村さんの朝は早い。5時半ごろには起床。夫の食事の支度をして送り出し、自身も朝食をとる。
「わかめやひじき、あらめ(コンブ科の海藻)など、季節ごとの海藻は毎食、食べますね。牛肉は食べない。もっぱら豚肉か、かしわ(鶏肉)です」(中村さん)
自身の食事が済むと、次は鍬を手にしての畑仕事。大根、白菜、キャベツ、さつまいもなどを自家用に育てている。
漁期(4~12月ごろ)となれば「磯着」に身を包み、あわびやさざえ、なまこなどを採るため磯に出る。潜水時間は1分程度、水深5~6m程度まで潜るという。
何よりの楽しみは“海から上がった後”と中村さんが笑顔で話す。
「ここらで『かまど』と呼ぶ海女小屋に仲間が集まって、餅や採ってきた貝を焼いたりしながら、おしゃべりに花を咲かせるんです。それぞれ愚痴を言い合ってスッキリするわけ。ストレスをためるのは体によくないからね」
とはいえ、長居はできない。家事が待っているからだ。夕方5時半には夕食を済ませ、毎晩夜9時には床に就く。酒、たばこは一切やらない。
まさに息をつく間もないほど忙しい毎日だが、中村さんはこう笑い飛ばす。
「やることが多くて、ダラダラ働いてたら間に合わない。一日中動き回るということを20才の頃からずっとやってきただけ」
少女のようにケラケラと笑う中村さんの生命力は海から授かったものだろう。
※女性セブン2019年2月28日号