親が高齢になって支えや助けが必要になり、子世代の生活にも少なからず影響が出たりして、いわゆる“親の介護問題”が持ち上がる。そのとき、不幸に見舞われたと重苦しい気持ちになるか、新たな人生のステージと思って前向きな気持ちで挑むか、明暗を分けるのは何だろう。
親の介護度や経済的な問題など、要因はもちろんいろいろあるが、それらを凌駕するのはユーモアの心ではないか。
「シニアの生活にこそユーモアの力が発揮される」と言う高千穂大学人間科学部教授の小向敦子さんに聞いた。
「同じ絶望、苦境の中にあっても、ユーモアを持っているのといないのとでは、状況の見え方が180度違ってきます」と言う小向さん。
超高齢社会の今、高齢になってからの時間が長くなった。親は社会的な立場を引退して心身の機能も衰え、その子世代も初めての介護という課題に頭を抱える。親も子も、苦境を憂うのも無理はない。
「親世代にとって高齢期は、仕事や体力、若い美貌などに支えられたそれまでの人生をリセットし、素で勝負することになるわけです。新たなステージが明るいものになるかは、本人自身が人生をおもしろがれるかどうかにかかっているのです」
例えば、イラストのように、同じ物を何度も買ってきてしまう「高齢者あるある」。物忘れを責めたり憂えたりしても状況は何も変わらない。それより普通ではありえない“大量の納豆”のおかしみを、一緒に笑える心の持ちようを育ててみてはどうだろう。
“笑い”による健康効果はよく知られるようになった。笑うことで快楽ホルモンが増えてストレスホルモンが減ったり、またジョギングするような運動効果が得られたり、消化機能を高める効果も。笑いが全身の健康に寄与するという検証報告は山ほどある。
「笑いとユーモアとは、同じものではありません。一般的な笑いは目に見える行為を指すのに対し、ユーモアはおかしみを感受しておもしろがる心の持ちようのこと。楽しくなくても口角を上げて笑顔を作ると、脳が勘違いをして健康効果が得られるという研究結果もありますが、ユーモアを持つとは単に笑うだけではなく、愉快なことに目を向けて素直に笑い、そのおもしろさ、楽しさを周囲の人にも拡散することです。
そんな“おもしろい人”の周りには自然と人が集まってきて、何かと助けてもらえるもの。素で勝負する高齢者にとってユーモアは、サバイバル技術ともいえるのです」
これはもちろん子世代にも当てはまる。仕事、子育て、家事に追われ、その上に介護まで…と、不安・不満のループに落ち込んでいたら、ユーモアに目を向けてみよう。
【Profile】
高千穂大学人間科学部教授・小向敦子さん/米国イリノイ大学心理学部(専攻)卒業、同大学院教育学部博士課程修了。シニアの生き方とユーモアの研究を中心に、授業では老年学、ゼミでは笑い学に取り組んでいる。近著に『すごい葬式 笑いで死を乗り越える』(朝日新書刊)がある。
※女性セブン2019年2月28日号