「お菊虫」を持つ荒俣宏氏
グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(69)が“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクト。渡辺氏は、自然な笑顔を引き出すべく、撮影する人に「一品」を持ってきてもらって、それにまつわるエピソードを聞きながら撮影する。
博物学者や小説化など多彩な顔を持つ荒俣宏氏(71)が持ってきたのは、3Dプリンターで作った生きた妖怪「お菊虫」。捜索5年、京都の山中でついに発見したお菊虫。その正体は、ジャコウアゲハの蛹である。
「原寸は2センチほど。どうしてもみんなに見せたくて3Dプリンターで拡大して作ったのがこれ」
X線写真で蛹の中身も見た。
「ただの水で驚いたね。幼虫が蛹になると一度溶けて、再び作り直される。つまり、亡霊。僕は実物の妖怪を捕まえたわけです」
今も大事に育てており、羽化を心待つ段階と笑みがこぼれる。死にまつわる著作も多い知の怪人が理想とする死に方は、“元気であの世に逝こう”。作家仲間に倣い死の翌日に「突然ですが死んでしまいました」とブログ配信する洒落たお別れも企てる。死に対する心配はないが、カウントダウンが迫る残り時間をいかに生きるかが一大事と語る。
「ダイビングで海の生物の神秘にもっと触れたい。南の島で釣り三昧の暮らしも夢だね。お菊虫に僕の顔を合成したビッグバージョンを作るのも面白いね~」
妖怪博士の好奇心は尽きない。
【プロフィール】あらまた・ひろし/1947年、東京都生まれ。博物学者、図像学研究家、小説家、妖怪評論家、タレントなど多彩な顔を持つ。著書、訳書は300冊に及び、代表作『帝都物語』は350万部の大ベストセラーで日本SF大賞を受賞。
◆撮影/渡辺達生、取材・文/スペースリーブ
◆小学館が運営する『サライ写真館』では、写真家・渡辺達生氏があなたを撮影します。詳細は公式サイトhttps://serai.jp/seraiphoto/まで。
※週刊ポスト2019年3月1日号