そういった“抜けてくる”強い馬の育成も少し変わってきます。
秋に菊花賞を使いたいと思えるような馬ならば、昨年までは夏くらいから長い距離を走らせました。そのとき、1000万円以下クラスでは、準オープンから降級してきた馬がいて、かなりレベルの高いレースを強いられた。
そこで勝ち抜けば相当の見込みがあるものの、長距離馬は夏を越えたあたりで一気に完成することも多いのです。だから早めに仕上げようと鼻息を荒くしてきたわけですが、今後は1000万円以下の相手関係がぐっとラクになる。長距離馬の仕上げに、昨年までほど焦らなくていいということになりそうです。
ぽんぽんとレースを使わずに、格上挑戦などピンポイントで走らせたほうが良くなる可能性も大きくなります。
さらに、3歳馬の使い方にも関連することですが、「リステッド格付け」が導入されます。降級制度の廃止によってオープン馬が増加する試算を受けての改革です。重賞とオープン競走の間に、もうひとつのランクを入れ込む。増加するオープン馬の出走を円滑化し、実力拮抗の白熱したレースを行う目論見でしょう。リステッド競走の勝者は、セリ名簿などでもブラックタイプで記されるようになります。
3歳戦ではクラシックに直結する芝の中距離のほとんどがリステッド競走となります。3歳リステッド競走1着馬の収得賞金算入額は1200万円となるため、GI出走馬を決定する段階で重要になってきます。
まさに優勝劣敗。ファンの視点で「強い馬なのか、それほどでもないのか」という見極めが、制度改革によって分かりやすくなった。それは間違いなさそうです。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後17年で中央GI勝利数24は歴代3位、現役では2位。2017年には13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。本シリーズをまとめた『競馬感性の法則』(小学館)が発売中。2021年2月で引退することを発表している。
※週刊ポスト2019年3月1日号