最先端医療への信頼は、技術力だけでは生まれない。その運用方法や患者への誠意ある説明があって初めて、人はその技術を頼るものだ。昨今の日本医療に欠けているのは、技術以前に患者との信頼感である。本誌2月1日号で詳報した東大病院での心臓手術死亡事故を始め、数々の医療問題をスクープしてきた医療ジャーナリストの伊藤隼也氏が、日本を代表する大学病院で起きた不可解な医療事故とその対応のあり方について問題提起する──。
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「担当医の教授から『すぐに手術しないとダメだよ』と言われて覚悟を決めたのに、延々と手術の日程が決まらない。一体何が起きているのか、とても不安でした」
こう話すのは、埼玉県在住の60代男性・A氏。
昨年の健康診断で、持病の胸部大動脈瘤の悪化が判明したA氏は、地元のかかりつけ医に紹介状を書いてもらい、昨年7月に自治医科大学附属さいたま医療センター(埼玉県さいたま市)の心臓血管外科を受診した。
全国に5つの系列病院を持つ自治医大のなかでも心臓血管外科の技術に定評がある。1989年のセンター開設以来、〈診療要請を断らないポリシー〉(同外科HPより)で多くの患者を受け入れ、2017年の心臓血管外科手術は976例、そのうち心臓に直接メスを入れる「開心術」は500例を超す。同センターによる心臓手術数は全国9位を記録している。