「私が死んだら、○○はお前にあげる」──家族や親戚などにこのように言い残すことは珍しくないが、その多くは口約束だろう。ところが、「死んだらあげる」という証文まであるのに遺族から贈与拒否された場合、どうすれば良いのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
故郷に盆栽好きなおじさんがいて「自分が死んだら、高価な盆栽をあげる」と証文まで書いてくれました(署名だけ)。その後、おじさんが亡くなり、遺族に証文を見せたところ、「遺書には書いてない。盆栽の管理は遺族に託す、と書かれている」と受け渡しを拒否。この証文、法的に役に立たないものですか。
【回答】
死んだら盆栽をあげる──との約束は「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与」(死因贈与)です。文書によらない死因贈与は、取り消し可能ですが、証文があれば、取り消しできません。押印がなくても、署名で本人の文書であることがわかりますから、大丈夫です。
死因贈与は、贈与者の死亡で効力が生じる点において遺言と類似しているので、民法は「(死因贈与の)性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」と定めています。そこで「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」との遺言者の最終意思を尊重した民法1022条の準用が問題になります。
遺言は遺言者が単独でしますが、死因贈与は贈与者と受贈者との間の契約で、法的な性格が異なり、撤回できないとする説もありますが、通説は不当な結果になる例外を除き、遺言の撤回の規定が準用されることを認めます。