涙を流すことは時に、人の心を楽にする。心洗う、泣ける話。57才・主婦が実体験を語ってくれた。
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結婚して8年、不妊治療を続けたものの子供を授からなかった私たち夫婦が、ようやく「あきらめようか」と、心を決めたのはお互いが35才の時のこと。突然夫から呼び出され、“あの子”を紹介されたんです。
「この子が今日からおれたちの息子です」
そう言って、夫が私に見せたのは、真っ赤なスポーツカーでした。あの時ほど呆れ、怒り、何も言えなくなったことはありません。なんせ数千万円ものローンを勝手に組まれたわけですから…。今後相談なく大きなことを決めたら、離婚すると宣言したくらいです。
それから夫は、箱根、湯河原、伊東と、毎週のようにドライブに連れて行ってくれました。車に乗っている時は、お互いをパパ、ママと呼び合い、夫婦げんかをしても、ドライブをすれば、いつの間にか仲直りしている。子供がいない私たちにとって、車が子供であり、まさに“かすがい”になっていったんです。
それから22年経った昨年春、私は原因不明の高熱を発症。診察を受けると、政府指定の難病だとわかりました。医師から説明を受けている間、夫は真っ青な顔をしてふるえていました。私は自分のことより、夫の生活や私の治療費、会社を辞めなければならないため収入が半減することの方が心配でした。
ところが、入院生活が始まると夫は打って変わって明るくなり、「ご飯はどうしているの?」「治療費は足りている?」と、聞いても笑顔で「大丈夫」としか言わなくなったんです。
2か月の入院が終わり家に帰ると、愛車がありません。売って治療費に充てたというのです。絶句する私に夫は、
「おれはママがいないとダメだから、ママに生きていてもらうよう、息子には自立してもらったんだ。相談しないで悪いと思ってる。離婚は勘弁してくれ」
と、ポツリ。離婚どころか感謝しかありませんでした。ここまで夫婦の愛を深められたのは、車と病気のおかげです。これからも“大きな息子”である夫と一日一日を大切に歩んでいこうと思います。
※女性セブン2019年3月7日号