遺産の分配は故人の遺志が最優先され、遺言書があれば相続人による協議の必要はない。だが、相続を巡る係争で多いのは、兄弟の遺産分配協議がまとまった後、親の自筆の「遺言書」が見つかるケースだ。
「親父は何で先に言っておいてくれなかったのか」
公証役場で作成保管する公正証書遺言と違って、自筆証書遺言は保管場所が決まっていないことが原因だ。遺言の内容次第では、せっかく円満に分割していたのに、かえって遺産争いを招きかねない。
それを防ぐのが来年7月施行の「法務局における自筆証書遺言保管制度」だ。これは遺言者本人が作成した自筆遺言を所管の法務局に持参して保管申請することで、本人の死亡後、相続人が遺言書の保管を照会し、交付を受けられる制度だ。
保管申請にあたって法務局の専門官が遺言書の内容をチェックするため、不備があれば指摘してもらい訂正できる。円満相続税理士法人代表の橘慶太氏が説明する。
「自筆証書遺言はトラブルを招きやすいが、一番多いのが紛失。信頼する人に預かってもらうのが一般的ですが、いざ相続が起きる頃には相手も高齢化していることがある。かといって自宅に保管すると改ざんの心配もある。法務局で保管すればそうした心配がなくなる」
自筆証書遺言は相続人立ち会いの下、家庭裁判所で開封する「検認」という作業が必要だが、法務局に保管された遺言書はその手続きも必要なくなる。