映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優座養成所在籍中に映画で女優デビューした渡辺美佐子が、デビュー当時の思い出について語った言葉をお届けする。
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渡辺美佐子は一九五一年、俳優座養成所に三期生として入所、在籍中の五三年に今井正監督の映画『ひめゆりの塔』で女優としてデビューしている。
「俳優座養成所には個性的な俳優がたくさんいるという噂が立って、いろんな監督さんが面通しにいらしたんです。その中に今井先生がいらして、『ひめゆりの塔』の沖縄の女学生役に選ばれて、先生に引率されて大泉の東映の撮影所に通いました。
スタジオには何十人ものスタッフがいらして、皆さんがいい映画にしようと本当に泥まみれになりながら働いていました。それで、セットに入ったら上から水が落ちてくるんです。
見ると、上からライトを当てている照明さんたちの汗。当時は光量が強いから、熱いんですよ。でも、汚いとは思いませんでした。あんな高いところから私たちを照らしてくれて、大変だなあと。そういう、皆で力を合わせて一つの作品を生み出すのって素敵だと思いました」
渡辺が演じたのは、沖縄戦で負傷し、ただ一人残されて自殺していく女学生役だった。