国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2030年、日本の生産年齢人口(15~64歳)は2015年の7728万人から1000万人近く減少し、6875万人になるという。将来の人手不足に対応するため、あらゆる企業で「AI(人工知能)」や「IoT(モノのインターネット=家電などのモノやモノ同士がインターネットにつながる仕組み)」の導入が盛んだ。そんな中、経営コンサルタントの大前研一氏は、平均年収トップのある日本企業に注目する。
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計測・制御機器大手の「キーエンス」という会社がある。「平均年収が高い会社」ランキング(東洋経済新報社/2018年2月)によれば、同社の平均年収は1861万円で断トツ。2017年3月期決算における営業利益率は53.7%を誇る。時価総額は約7兆円だ。
キーエンスの強みは「社内に製造部門を持っていない」ことだ。キーエンスはユーザーの現場における生産性改善のネックを見つけ出し、それを解消する装置を提案する。ニッチに対応しているのでその製品は「唯一無二」のものとなり、競合他社は存在しなくなる。キーエンスはその製品を納品するために、社外の技術者や会社を使って製造しているのだ。技術者とニーズのマッチングに特化していると言える。いわば、所有せずに空いているものを有効活用する「アイドルエコノミー(Idle Economy)」の考え方を実践しているのだ。
もう一つの強みは、キーエンスが「センサー」を扱っていることだ。なぜなら、センサーこそIoTの鍵を握るからである。
たとえば、工場の生産ラインでは、検査、測定、制御などが必要となる。そうした技術を支えているのは、精度の高いセンシング(音・光・圧力・温度などを測り情報を収集すること)なのだ。センサーで確実にデータを取ることでIoTは実現する。
世界最大級のIT企業「シスコシステムズ」のCEO(最高経営責任者)を20年にわたって務めたジョン・チェンバースはIoTの次に来るものとして、「IoE(Internet of Everything)」を唱えた。インターネット・オブ・エブリシング。文字通り、あらゆるものがインターネットにつながる世界だ。IoEとは、身の回りのすべてのモノにセンサーが埋め込まれ、それがインターネットにつながり、かつ相互に通信が可能になる社会のことである。