東京都世田谷区の区立桜丘中学校。この公立中学校が既存の学校の価値観を転換し、注目を集めている。学校での校則をやめ、生徒の自由としたのだ。授業においても、3Dプリンタの導入、スマホ・タブレットの使用可、果てには「授業中教室の中にいなくてもいい」なども導入した。生徒の関心から学びにつなげていく工夫が随所に光る。
その結果、いじめが激減。校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベルとなった。今では、私立中進学率の高い世田谷で「越境してでも行きたい」と人気の公立中学校となっている。
オレンジ色のパーカ、ピンクのジャージー…。桜丘中の校内ですれ違う生徒たちの服装は色とりどり。制服の上から大きめのセーターを羽織る“おしゃれ上級者”もいる。同校の西郷孝彦校長(64才)はこう言う。
「ここでは私服でも制服でもOK。『私立は制服がかわいいけど、公立は地味』という固定観念を覆そうと、知り合いのデザイナーに依頼して、5年前に制服を一新しました。コンセプトは“原宿でスカウトされる制服”。実際に青山界隈を男女4人の生徒に歩いてもらったんですが、本当に声を掛けられたそうです」
また、校長らしからぬ話を、楽しそうに教えてくれた。それにしてもこの制服、女子のスカート丈は膝上10cmという短さ。これにも意味がある。
「もし、“もっとスカートを短くしなさい”と言ったら、それはセクハラ。ならば逆に、“もっとスカートを長くしなさい”と言うのだって、本来はセクハラなんです。子どもたちにはこんなふうに、みんなが当たり前だと思っている価値観をひっくり返して考えることを知ってもらいたい」(西郷校長、「」内以下同)
もちろん、制服が嫌だったら着なくてもいい。“私服OK”の裏には、LGBT(性的少数者)の生徒への配慮もある。
「先日、都内の一部の区の中学校で、『男女問わずスカートとズボンから制服を選択できるようになった』というニュースがあり、画期的などという論調もありましたが、でもそれは違います。スカートかズボンのどちらかを選んだ時点で、カミングアウトしたのも同然。もしかしたら、いじめや差別の対象になるかもしれない。だからここでは、制服はスカートとズボンのどちらでも構わないし、制服を着ないという選択肢だってあります」
日本におけるLGBTの割合は13人に1人といわれている。30人のクラスであれば、2人が該当する計算になる。
「修学旅行では、LGBTの生徒はみんなと一緒に大浴場に入ることはもちろん、それを言い出すのも難しい。ですから、すべての部屋の内風呂を断りなく使えるようにしたいと、女将に相談したんです。ところが、向こうはダメの一点張り。
ついには女将とけんかになっちゃって、今年はこの旅館をキャンセルしました。社会では、まだ理解が追いついていないことを痛感した出来事でした。だからこそ、クラスに数人いるかもしれないLGBTの生徒が、どうしたら学校生活を楽しめるのか、これからも考えていきたいと思っています」
※女性セブン2019年3月14日号より一部抜粋