どんな「手術」にも、患者の命を長らえさせる可能性があると同時に、その侵襲性が大きいほどに増すリスクが存在する。命を脅かす「がん」と闘うときも同じだ。
例えば、堀ちえみの「ステージIV告白」で注目を集めた舌がん。男性の患者数は女性の2倍だが、初期症状が口内炎や歯周病などと似ていて見分けにくい。
舌がんは手術が基本だが、全摘すると生活が一変してしまう。東京ミッドタウンクリニックの森山紀之医師(71)はこう話す。
「舌を全摘すれば執刀医としては手術がシンプルで楽ですが、患者は喋ることができず、味覚や唾液の分泌がなくなるほか、顔面の神経細胞が損傷されれば、さまざまな副作用が出ます。患者の尊厳にかかわる問題なので、手術する場合でも唾液腺の開口部だけは残すなど、できる限りの機能温存を図ることが望ましい」(森山医師)
舌がんを含む口腔がんは扁平上皮がんというタイプが多い。
「扁平上皮がんは放射線治療が有効です。最初の患部と近接したところに再発しやすい特徴がありますが、手術する際もできるだけ放射線治療を組み合わせて、舌の機能保全を図るのが望ましい」(森山医師)
専門の医師が「受けない」「受けたくない」とする手術が何なのかを踏まえた上で、“賢い患者”を目指していきたい。
※週刊ポスト2019年3月15日号