私立中学校への進学率が高い東京・世田谷区に、「越境してでも行きたい」と人気の公立中がある。区立桜丘中学校だ。かつては歴代の校長が「一日でも早く異動したい」と嘆息するほど荒れた学校だったが、2010年に現在の西郷孝彦校長(64才)が就任し、以後足かけ9年を費やし、自由にして多様な学校をつくり上げた。
納得のいかない校則の一つひとつを検証し、ついには全廃してしまったが、そんな西郷校長が何をおいても優先して守るよりどころがある。
「それは“生徒が3年間楽しく過ごせる学校にする”という目標です。校則がないのも、実はその目標が先にあり、“校則があると楽しくないよね。だったらなくしちゃえ”となったわけです。
授業にいろいろな工夫をしているのも、“勉強ができないと、学校が楽しくないし、高校受験も大変だよね。だったら学力のつく授業を採り入れよう”と逆算して考えていった結果です。桜丘中学の取り組みは、学校が楽しくない条件を改善することで、出来上がっていったんです」(西郷校長)
「服装自由」「スマホ・タブレットの使用可」「授業に参加せず、職員室前の廊下に設置された席で自習をしてもOK」「100円でご飯も食べられる『夜の勉強会』の開催」「生徒が好きな先生を指名して語り合える『ゆうゆうタイム』の導入」「理科の授業に3Dプリンター導入」など、様々な施策を行ってきた。
そうして、桜丘中学校はいじめが激減、校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベルとなった。
◆あえて波風を立てる
あらゆる学校にとって大きな課題であるいじめの問題。2月19日には、2011年に起きた大津中2いじめ事件で自殺した中2男子の同級生2人に、約3700万円の賠償を命じる地裁判決が出た。
“とにかく楽しい3年間”がモットーの桜丘中にも「いじめは当然ある」と西郷校長は言う。
「小学校で大きなストレスを抱えてきた子ほど、鬱積された自分のイライラを人にぶつけて発散しようとする。
実際、区内のほとんどの小学校では、学級が崩壊する傾向があるといわれています。そうした小学生時代の思考を引きずったまま入学してくるので、中学生になってもいじめを起こしやすい。最も大変なのは、中1です」