日本人の死因第1位であるがん。これまで長く、「見つけたら切る」が治療の常識だった。外科手術でがんをすべて切除すれば再発の可能性が減るという前提に立ち、「早期発見、早期切除」が大目標とされてきた。
だが近年、その常識が変わってきている。例えば、がんによる男性の死者数では最多となる肺がん(罹患者数は3位)。呼吸器外科医の狭間研至医師(49)が指摘するのは「開胸手術のリスク」だ。
「従来の開胸手術は、袈裟懸けに背中の肉を切るので、呼吸に使う筋肉を損傷して肺炎になるケースがあります」(狭間医師)
開胸手術の代わりとなるのは、胸に開けた小さな孔から内視鏡カメラなどを挿入して行なう「胸腔鏡手術」だ。
「背中の筋肉を切り開かずにすむため、患者の負担が少なく、この20年ほどで手術成績の面でも開胸手術と変わらないまでに技術が向上しました」(狭間医師)
近年、歳をとるほど手術を避ける判断は増えており、85歳以上はステージIで25.4%、ステージIVは58%が「無治療」を選択する(2015年、国立がん研究センター調べ)。
そうした現状を踏まえ狭間医師は、「負担の少ない胸腔鏡手術に年齢は関係なく、体力などの状態が良好であれば90代でもオペができます。私自身が患者になったら、胸腔鏡手術を選択肢のひとつとして積極的に考えるでしょう」とつけ加えた。
※週刊ポスト2019年3月15日号