日本人の死因第1位であるがん。これまで長く、「見つけたら切る」が治療の常識だった。外科手術でがんをすべて切除すれば再発の可能性が減るという前提に立ち、「早期発見、早期切除」が大目標とされてきた。
だが近年、その常識が変わってきている。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が解説する。
「体にメスを入れる手術は当然ながら、患者への負担が大きい。大腸がんなら人工肛門になる、胃がんなら食事が難しくなるなど、術後の生活に大きな支障をきたすデメリットもある。かつては他に選択肢がありませんでしたが、医療の進歩により、がんの部位やステージによっては手術以外を選んだほうがいいと判断する専門家も増えてきています」
とりわけ歳を重ねるほどに「手術を受けない」という選択は有力になってくる。
例えば、60歳以上の患者が9割以上とされる前立腺がんは高齢化に伴って患者数が増加し、罹患者数は男性で4番目に多いがんだ。
「前立腺がんの場合、検査の結果『悪性度が低い』と判断されれば、手術や抗がん剤などの治療を行なわず『経過観察』をとるのが効果的です」
そう説明するのは獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科の小堀善友医師(44)だ。