グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(70)が“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクト。渡辺氏は、自然な笑顔を引き出すべく、撮影する人に「一品」を持ってきてもらって、それにまつわるエピソードを聞きながら撮影する。
医師で登山家の今井通子氏(77)が持ってきたのは、亡き父の形見でもある鉢植え。愛おしそうに抱く鉢植えは、艶やかな葉で豪華に咲くオレンジ色の花が待ち遠しい君子蘭。
「40年前、南極遊覧飛行中に母と共に遭難死した父が、陽が注ぐ縁側で育てていた植物。8鉢あり、水やりや根分けの度に父の顔や作業姿が浮かびます」
30代半ば、両親が突然いなくなる衝撃は想像に絶する。葬儀、遺品整理、遺産相続とやるべきことの多さに悲しむ暇もなく、「どうすべきかを聞きに、私もあの世に行きたいと思ったほど」
その経験から終活の大切さを実感し、自分より長生きするであろう君子蘭の行き先も含め、娘へと徐々に繋いでいる。
喜寿を迎えた今も月1で山へ。
「森の中で静かに過ごすと、ストレス緩和、がん細胞を攻撃するNK細胞が増えるなどの効果があります。だから森で憩い、山登りで体力を維持し、至って元気。森林行と山登りに定年なしです」
日本が誇る女性クライマーは、逞しく美しく歳を重ねている。
【プロフィール】いまい・みちこ/1942年、東京都生まれ。医師・登山家。女性世界初の欧州三大北壁(マッターホルン、アイガー、グランド・ジョラス)完登者。65歳で医師引退後も森林保全活動や科学、健康、教育などの分野で幅広く活躍する。
◆撮影/渡辺達生、取材・文/スペース リーブ
◆小学館が運営する『サライ写真館』では、写真家・渡辺達生氏があなたを撮影します。詳細は公式サイトhttps://serai.jp/seraiphoto/まで。
※週刊ポスト2019年3月15日号