深夜枠のドラマは題材においてもキャスティングにおいても「実験」ができる故に、思わぬ発見に遭遇することが少なくない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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今期ドラマのナンバーワンに推したいスリリングさ。何の変哲もない日常の中に潜む、底知れない闇を見せられてしまうのが『絶対正義』(フジテレビ系土曜日23時40分)です 。主人公・高規範子(山口紗弥加)の口ぐせは「私何か間違ったことしている?」。
その姿は真っ白いスカートに真っ白のジャケット。オカッパ髪に見開いた目、ロボットのような口調、ちょこちょこと小刻みな歩調。存在がどことなく不気味。いや、それより何より「正しいこと=いいこと」という、範子の中の鉄壁常識がヤバイ。そして「家族」という括りへの盲信も。
範子は間違いや法を犯すものを許さない“絶対正義”主義者。「私たち、家族だよね」と確認し合った女子校時代の親友4人を破滅へと追い込んでいく。「正しいから」「家族だから」「あなたの味方だから」という理由を楯にして、人の行動を束縛し制止していくモンスター。
そう、「家政婦のミタ」の鉄面皮にも通じる直進型人間の恐ろしさと奇妙さ、そこから滲み出てくる滑稽さ。範子役の山口紗弥加さんの徹底した演技に目を奪われてしまいます。
範子のキャラクターは異色で、シニカルなパロディにも見えてくる。あまりリアルに演じてしまったら深刻すぎてしまうから、意図的に演出し戯画化しているのかもしれません。
そんな「破壊的トリックスター」に成り切っている山口さん。セリフ回しだけでなく全身全霊を使って演じているこのドラマ、山口さんの役者としての殻をもう一枚破り、次へとつながるステップとなることは間違いなさそう。
いや、山口さんに限りません。役者たちの頑張りぶりも見所です。
「初めて女優に挑戦」という元TBSアナウンサーの田中みな実さんは、「初」というわりに演技が自然でびっくり。役どころは「妻子ある男性と不倫中の女優・石森麗香」。実にさらりと石森麗香に成りキャラを体現しています。
たしかに田中さんのアナウンサー時代を思い返すと、「ぶりっ子」キャラを開花させ「みな実はみんなのみなみだよ」と決めセリフまで作り思い切り楽しませてくれました。どう振る舞えばより面白いか、より周囲のリアクションが大きくなるか、観察しつつぶりっ子演技の研究をしていたとしか思えない。
つまり、アナウンサーの頃から田中さんは「演技力」を磨いていたのでは。この調子なら、今後も女優として走っていけそう。そう、知らぬ間に「みんなのみな実」は「女優のみな実」になっていました。