最近、テレビ東京の深夜ドラマのある“異変”に注目が集まっている。それは出演する女優たちが深夜にしてはあまりにも豪華、ということ。テレビ解説者の木村隆志さんがその背景に迫る。
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3月に入って冬ドラマが終盤を迎えつつある中、ドラマ好きの間で、「テレビ東京の深夜ドラマが凄かったよね」という声があがっています。
凄かったのは、「深夜ドラマであるにも関わらず、各話のゲストに主演級の女優が出演していた」こと。終盤に差し掛かった今だからこそ、「テレビ東京の深夜ドラマ、凄くない?」「何でこんなに集められるのだろう」と話題になっているのです。
主演級の女優がゲスト出演していたのは、濱田岳さん主演の『フルーツ宅配便』、光石研さん主演の『デザイナー渋井直人の休日』、遠藤憲一さん主演の『さすらい温泉 遠藤憲一』。それぞれ一話完結形式で週替わりのゲスト女優が出演していますが、確かに豪華であり、時間帯を考えると異例の顔ぶれと言えます。
『フルーツ宅配便』には、内山理名さん、成海璃子さん、中村ゆりさん、阿部純子さんらが出演。『デザイナー渋井直人の休日』には、黒木華さん、川栄李奈さん、夏帆さん、池田エライザさん、山口紗弥加さん、内田理央さん、臼田あさ美さん、平岩紙さん、森川葵さんらが出演。『さすらい温泉 遠藤憲一』には、ともさかりえさん、山口紗弥加さん、堀田真由さん、加藤貴子さん、笛木優子さん、野波麻帆さん、伊藤ゆみさん、阿部純子さんらが出演。
いずれも主演級の女優であり、注目度が低く、ギャラの安い深夜ドラマに、なぜこれほど集まったのでしょうか?
◆気鋭の映画監督をチーフ演出に起用
最大の理由は、テレビ東京の制作スタンスが“クリエイティブ・ファースト”だから。近年、テレビ東京の深夜ドラマは、気鋭の映画監督を演出に迎える作品が多く、自局やスポンサーの事情よりも、「いいものを作ること」に徹しています。
実際、『フルーツ宅配便』は、映画『凶悪』『孤狼の血』などを手がけた白石和彌監督と、映画『横道世之介』『南極料理人』などを手がけた沖田修一監督。『デザイナー渋井直人の休日』は、映画『マザーウォーター』『東京オアシス』などを手掛けた松本佳奈監督、映画『ファの豆腐』『うちの執事が言うことには』などを手がけた久万真路監督。『さすらい温泉 遠藤憲一』は、映画監督でこそありませんが、民放各局やWOWOW、Huluなどでドラマを手掛けてきた後藤庸介監督が演出を担当。監督たちは「この役はあの女優に演じてほしい」と推薦し、女優たちは「あの監督が撮るのならぜひ出たい」という気持ちになりやすいようです。
とりわけ女優たちにしてみれば、「いい作品に参加できる」「気持ちよく演じられる現場だろう」というのが本音。また、「彼女が出るのなら私も出ておきたい」という安心感、あるいはライバル意識が芽生えやすく、制作サイドにとってはオファーを受けてもらいやすい好循環が生まれています。
女優たちの所属事務所が、「ゲスト出演ならスケジュールの問題はない」「監督との関係性を深めておくいい機会」とOKを出しやすいのもポイントの1つ。さらに、テレビ東京の深夜ドラマであれば、低視聴率でネガティブな記事を書かれる心配もありません。リスクや労力が少なく、はっきりとしたメリットがあるため、報酬が少なくても問題はないのです。
◆「テレ東の深夜ドラマは面白い」が業界に浸透