日本人の死因第1位であるがん。これまで長く、「見つけたら切る」が治療の常識だった。外科手術でがんをすべて切除すれば再発の可能性が減るという前提に立ち、「早期発見、早期切除」が大目標とされてきた。
だが近年、その常識が変わってきている。
例えば、膵臓がんは自覚症状が少なく、見つかった時は転移が進行しているケースが多いが、膵臓がんのうち、手術となるのは約1割だという。東京ミッドタウンクリニックの森山紀之医師(71)はこう話す。
「つまり症状が出て見つかった人の多くが手の施しようがない状態ということでもあります。進行している場合に無理に手術すると、苦しい死に方につながる怖れがあるので、私は受けたくない。
例えば、がんが膵臓の表面を超えて広がる『局所進行膵がん』になって、手術で腫瘍の周辺を除去すると腸を養う神経細胞が損傷される場合があり、術後に1日30回もの下痢になることがあります。
胃と接する腹膜までがんが飛び散る『腹膜播種』で手術すると、がんを切除しても腹膜に水がたまったり、がん性腹膜炎を発症して腸閉塞になることがある」(森山医師)
そうした場合、緩和ケアが選択肢になってくる。
「薬で長く延命できる人もいる一方、副作用で苦しむ人がいるのも現実です」(森山医師)
※週刊ポスト2019年3月15日号