経済成長の悪弊なのか、現在の中国の若者には「分相応」という言葉はまったく響かないようだ。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
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いまや日本でも定着しつつある中国の用語に「80后」や「90后」がある。ともに1980年、1990年代になって生まれた世代という意味だ。「90后」であれば、ざっと20歳から29歳までの中国人を指す。
この用語が生まれた背景には、世代間ギャップがあった。日本でよくある「最近の若い奴らは……」という、上の世代が若者の行動が理解できないということを表現するなかで使われてきた。
つまり一つの世代の持つ特徴を表しているのだが、これに関して最近、中国でちょっとした論争が起きた。それは「90后」が背負っている借金の平均についてであった。
議論に一石を投じたのは香港上海銀行(HSBC)である。同行が公表したレポートによると、中国の「90后」は、一人平均12万7900元(約213万5930円)もの大きな借金を背負っていると報じられ、大きな話題となったのだ。
世界に名の知れたHSBCがいい加減な数字を公表するはずはない。それだけに議論の焦点はすぐに「なぜ、」そんな借金を背負っているのか」へと向かった。
90年代以前の中国の若者であれば、若くして嫁を迎えるために不動産を購入したり、若いうちに結婚して子供を育てるために生活のプレッシャーにさらされることはあったが、いまの若者はそうではない。それなのに「なぜ」というのが論争の的となった。
『半月談』は、一つの結論として「超前消費」こそがその原因ではないかと報じている。超前消費とは、収入以上の買い物をしてしまう行為や人を指して使われる言葉だ。
要するに身の丈に合った消費ができないということだが、その理由として一人っ子政策の下で偏愛され、情報化時代で世界の情報を手に入れられ、多元化した価値観を持ち、悠々自適に暮らしているなかで物質的な満足も求めるというわけだ。
ここに日々便利で身近になる借金のチャネルや売買ルートが、身の丈以上の消費を加速させたというのだ。『半月談』は最後に、被害が続出して社会問題になっている「套路貸」などの高利貸しの餌食にならないよう警鐘を鳴らしている。