【書評】『心の病を治す 食事・運動・睡眠の整え方』/功刀浩・著/翔泳社/1400円+税
【評者】香山リカ(精神科医)
最近、「うつを治す食事」といった本や記事は山のようにあれど、どれもいまひとつ根拠に乏しい。ところが本書は違う。著者の功刀医師が長年の研究で明らかにした「過剰なストレスホルモンが脳を痛めつける」という仮説がベースになっている。
ストレスホルモンとは、慢性のストレス(著者は「じわじわストレス」と呼ぶ)に対処するために体内で分泌されるステロイド系のコルチゾールのことだ。これはストレス状況では必要なものだが、過剰になると脳の神経細胞を活発にする「BDNF(神経栄養因子)」の生成を低下させ、結果的にうつ病などの原因を作るのだ。
では、どうすればいいのか。ひとつはもちろん、「じわじわストレス」を減らしてストレスホルモンが分泌されない状況を作ることだ。そのためにも功刀医師は、「長時間労働をやめよう」「運動を楽しもう」と提唱する。とくにおすすめは駅にも近い低山を楽しむ「ゆる登山」だそうだ。
それからもうひとつ、食事によっても脳を守る「BDNF」を増やすことができる。とくによいのは魚の油のEPAやDHA。セロトニンの元を供給するためには、肉や卵などアミノ酸を含んだ食品も欠かせない。鉄や亜鉛などのミネラルが不足しても脳は正常に機能しないので、レバーやカキ、大豆製品なども必要。ただし、メタボはうつ病のリスクを上げることがわかっているので、炭水化物や糖分は控えめにしたほうが。