スマホという便利なものがあるのだから、それで検索して調べることはよいことだ。ネット上の検索結果をみて、立派なホームページがあれば大丈夫だと信頼してしまうのは早計だ。春休みなど、休みを利用して繁華街へやってきた女性を狙う悪質スカウトには、ホームページだけきれいに整えて芸能プロダクションのフリをするグループがいる。ライターの森鷹久氏が、自称芸能プロダクションの手口についてレポートする。
* * *
「原宿を歩いていた時にスカウトされました。資料用といって写真を撮られましたが、個人情報を渡すのが怖くて住所も電話番号も教えていません。なのになぜ…」
こう話すのは、首都圏在住の女子高生・エイミさん(17)。原宿だけではない、新宿や渋谷を歩けば必ずといっていいほど芸能系スカウト声をかけられるという彼女だから、自然とスカウトを見抜く目も鍛えられたのか。話してひっかかるところがあった相手には、慎重に対応するようになっていた。そんな彼女に2月下旬、原宿で声をかけてきたのは芸能事務所「X」のスカウトを名乗る田川という男性だった。
「名刺を差し出してきて、タブレットを使い、その場で事務所のホームページ、所属している女の子のツイッターアカウントまで見せられた。どれも偽者っぽくないし、実在する女の子っぽかったし…。登録料など、絶対にお金はかからないというので話だけ聞いていたけど、考えておくというと、電話番号と住所をしつこく聞かれました。ラインでいいですかって聞いても番号じゃないとダメだといわれて…」(エイミさん)
これまで、様々な悪徳芸能事務所やそのスカウトに関わる取材を続けてきた筆者だが、エイミさんが気を許し、写真を撮らせたのはまずかった。というのも、写真が転売され、出会い系サイトの広告やサクラ用の写真に使われることはよくあることだからだ。かつては、ファッションビル・渋谷109の前で雑誌のファッションスナップを名乗り、出会い系サイト用の写真を撮影しまくっていた連中もいた。電話番号などの個人情報を渡さなかったことは正解だが、案の定、エイミさんの写真は件の芸能事務所のホームページに無断でアップされていたのだ。
「その時一緒にいた友人のママから連絡がありました。いかにも“当事務所に所属しています”みたいな書き方がされていて、名前も年齢もデタラメ。事務所に電話し抗議するとすぐに消されましたが気持ち悪くて…」(エイミさん)
都内の大手プロダクション関係者・増田洋一さん(仮名・30代)は、このような得体の知れない芸能事務所が、SNSの発達とともに増えていると指摘する。
「芸能事務所の立ち上げなんて、言ったもん勝ちなんです。適当にホームページ作って、街角で適当なこと言って女の子の写真撮ってきて載せれば、それっぽいモノはいくらでも作れる。今度はそれを見せてスカウトすれば、インチキじゃないのかも知れないと思って女の子が引っかかる」(増田さん)
その芸能事務所が本当に存在して、活動実績があるかどうかは、ホームページを確認するだけでは不十分だ。会社として本当に存在しているのか、オフィスが実際にあるのかなど、本来、確かめるべきことはいくつかある。だが中には、検証の目をかいくぐるアリバイとして法人登記しているプロダクションもあるので、念を入れすぎても損はない。
厳しいことを言うようだが、スカウトに関わる取材を続けている自分に言わせれば、ナンパするように街でスカウトをする「プロダクション」のほとんどは、実際には芸能事務所とは言えない。キャバクラなど風俗店へ女性を斡旋する仕事がメイン業務であることが多く、また最近の動向としては、こうした自称「プロダクション」はそもそも女性に芸能活動をさせる気がほとんどなく、事務所への登録料やレッスン料名目で金を巻き上げることを目的としているともいう。