「良薬は口に苦し」とはよく言ったもの。しかし、どんなによい薬でも、あまりにも多くのんだり、組み合わせを間違えたりすれば苦いだけでなく、毒にも変わる。多くの薬を飲みすぎた結果、害になってしまう「多剤弊害」も問題となっている。
薬の持つ副作用について、プロであるはずの医師ですらよく知らないまま、処方している場合もある。医療問題に詳しいジャーナリストの村上和巳さんはこう話す。
「例えば循環器や血圧を専門にしている医師に、睡眠薬系の知識がないというのはよくある話。よくわからないから、『とりあえず名前を知っている有名な薬を出しておこう』と処方することもままあるのが現状です。
一例を挙げるならば睡眠薬では便秘の副作用があるものが少なくありません。もし睡眠薬で便秘の副作用が出たら、睡眠薬が本当に必要なのか否か、服用量は適切なのかの再検討が必要です。ところが睡眠薬に詳しくない医師は、睡眠薬の副作用で便秘が出ても、体調変化が原因と判断してしまい、単純に便秘薬や整腸薬が追加され、多剤併用の泥沼に陥ってしまいます」
実際に、薬ののみ過ぎが原因で病状が悪化した例も少なくない。新田クリニック院長の新田國夫医師が言う。
「例えば、一部の胃薬に含まれるH2ブロッカーという成分は、胃酸の分泌や胃の不快な症状を抑える半面、脳にも影響を及ぼし、その結果、うつ病や認知症を悪化させることがあります。
そうした副作用を胃薬が原因だとは思わず、認知症が悪化したと判断し、向精神薬を投与すると、レビー小体型認知症の場合には手足が震えるパーキンソン病のような症状が悪化する。ひどい場合は幻視が出現する話はよく聞きます。こういった場合、すべての薬を一旦やめると、症状がおさまるということもあります」
在宅医療や訪問診療に取り組むたかせクリニック院長の高瀬義昌さんも声をそろえる。
「認知症を発症した80才の男性患者が、不眠やめまいを訴えたところ、抗不安薬を複数処方された。しかしその後だんだん怒りっぽくなり、夜中に大声を出して暴れて、ついには妻を突き飛ばして骨折させてしまった。
診察してみると、認知症の薬のほかに抗不安薬が2種類、胃腸薬4種類、降圧剤3種類など、合わせて17種類もの薬をのんでいました。そこで薬を見直し、4種類に減らしたところ、怒りっぽさが消えて穏やかな性格に戻りました。抗不安薬や抗認知症薬の中にはイライラしたり怒りっぽくなったりする副作用があるものもあり、併用したことで症状が出やすくなったのではないかと推測されます」
※女性セブン2019年3月28日・4月4日号