グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(70)が“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクト。渡辺氏は、自然な笑顔を引き出すべく、撮影する人に「一品」を持ってきてもらって、それにまつわるエピソードを聞きながら撮影する。
NHKを経て高知県知事をつとめ、昨年まではテレビ番組のキャスターをつとめていた橋本大二郎氏(72)が持ってきたのは、「ザ・ビートルズ」日本武道館来日公演のチケット半券。
1966年、日本を熱狂の渦に巻き込んだビートルズの来日。メンバー4人では二度と日本の地を踏むことはなかった唯一の公演チケットは、貴重なお宝だ。
「お袋がくれた1枚です。当時大学生でしたが、高校時代にバンドを組んでいたので、僕が喜ぶだろうと手に入れてくれたのでしょう。音楽は素敵でした。でも警備が物々しく、お行儀よく聞いていた感じ。ビートルズもやりにくかったんじゃないかな」
これまで数々の要職を歴任したが、自分の意思とは異なる運命だったと語る。そして、その流れが穏やかとなった今、愛妻と過ごす日々の幸せを実感する。
終活は墓の下見に行き、断捨離も始めた。「フリマサイトにも挑戦したいが、手続きのハードルが高い。年配者がやりやすくなると市場が広がると思うな」
人生100年時代、妻は「あと30年一緒に」と望む。対して橋本氏は、「妻が先に逝ったら、3日のうちに会いに行く」と誓っている。その表情は愛に溢れる。
【プロフィール】はしもと・だいじろう/1947年、東京都生まれ。慶應大学卒。NHK入局後、記者、キャスターを経て、高知県知事を16年務める。メーンキャスターで復帰した『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)は昨年卒業。現在は講演等で活躍
◆撮影/渡辺達生、取材・文/スペース リーブ
◆小学館が運営する『サライ写真館』では、写真家・渡辺達生氏があなたを撮影します。詳細は公式サイトhttps://serai.jp/seraiphoto/まで。
※週刊ポスト2019年3月29日号