間もなく「平成」の時代が終わる。天皇という苛烈なご生涯を送ることを、皇太子殿下は国民のために受け入れるご覚悟ができている。その背景には、激しく皇太子に自戒を求める内容の書物に「非常に深い感銘を覚えます」と言い切っておられるほど、ご自身を厳しく律しようとされる姿勢がある。神道学者の高森明勅氏が、かつてないスケールのご活躍が期待できる皇太子殿下のご様子について綴る。
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歴史上、“皇太子”という立場の方に最も厳しい訓戒を与えた書物は、花園天皇(95代)の『誡太子書(かいたいしのしょ)』だろう。同書は、元徳2年(1330)に当時の皇太子、量仁(かずひと)親王(後の北朝1代光厳天皇)に贈られたもの。
「皇太子は宮中で優しく育てられたから人民の大変さを知らない。きれいな着物を着ても、その着物を作る苦労を知らない。おいしいご馳走に飽いても、農民の耕作の困難さを知らない。いまだ国への功績が少しもない。人民に対する貢献もない。にもかかわらず、先祖のおかげで将来、天皇の地位に上ろうとしている。すぐれた人格的価値も身につけないで、人々の上に君臨することは、自分で恥ずかしく思わないのか……」(要約)
こんな情容赦のない言葉が並んでいる。
鎌倉幕府の討滅から建武(けんむ)の新政をへて、やがて南北朝の動乱へと流れ込んで行く直前の危機的な時代相の中で、皇太子たる者、身を修めて学問を身につけ、ひたすら人格の向上を図るべきことを切々と説く。じつに激しく皇太子に自戒を求める内容になっている。
ところが皇太子殿下は、歴代天皇の事蹟を学ばれる中で最も印象に残っていることとして、とくにこの『誡太子書』を取り上げておられる。