芸能

朝ドラ『まんぷく』 正確な時計の代わりとなってくれたドラマ

『まんぷく』クランクアップを迎えた安藤サクラと長谷川博己

 誰もが結末を知る物語だけに難しさもあったのかもしれない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が朝ドラを総括する。

 * * *
 半年の間、月曜~土曜日に放送されてきたNHK連続テレビ小説『まんぷく』もいよいよ来週、その幕を閉じます。ちょっと寂しい。というのもこの朝ドラ、他の作品とは異質な、明らかに傑出した特徴があったから。それは、「抜群の安定感」「変化することのない一貫性」でしょう。

 インスタントラーメンを開発した安藤百福夫婦がモデル。頭の中が仕事で一杯の立花萬平(長谷川博己)と、その夫を支える妻・福子(安藤サクラ)の物語。福子は家庭内を切り盛りするだけでなく、仕事上でも夫を支えヒントを出したり新商品について重要な助言をする。ちょっと素人の思いつきのようにも見えるけれど、しかしアイディアはどんぴしゃ当たる。問題が解決され開発は進んでいく──というパターンが繰り返される安定ぶりでした。

 一方、母・鈴(松阪慶子)の決まり文句は「私は武士の娘です」。こちらも一貫性がありました。福子の姉・咲(内田有紀)は家族思いで、亡くなった後まで繰り返し画面に登場しあの世からアドバイスをするという、こちらもまた実に堅実なパターンを踏襲しました。そう、いずれのキャラクターもブレのない安定飛行を続け、ふと物語の進行を忘れてしまうほど、いつ見ても変わらない姿を維持してくれました。

 ささやかな変化の味付けといえば、若者たちの恋愛エピソード。噂話の舞台といえば、近所の喫茶店「パーラー白薔薇」がお定まり。他に類を見ない筋のわかりやすさ、揺らぎの少ない舞台設定。

 過去の朝ドラを振り返ってみれば……波瑠主演の『あさがきた』は幕末~明治という変革期の中、大阪の両替商・加野屋に嫁いだ女性が主人公でした。しなやかで力強く生き抜こうとする女性経営者が、時に時代の波にもまれて波乱の人生にハラハラドキドキ。あるいは有村架純主演の『ひよっこ』は、高度成長期に田舎から上京してきた金の卵たちの行く末や失踪してしまったお父さんはいったいどこにいるの、とヤキモキしました。

 もし今回のドラマがこうした類いの過去作品のように未知の展開に突入したら……視聴者の目は画面に吸い寄せられ、洗いものの手は止まり、出勤の準備や仕事の準備に支障をきたし、朝の化粧も遅れたり手抜きになるはず。15分間テレビの前から離れられず、その分忙しい朝が益々忙しくなっていたはず。

 しかし今回はそうした想定外の展開もなく、着実にパターンを繰り返してくれたおかげで、視聴者も朝の準備をスムーズに進めることができたのでした。特に最後の数ヶ月間は、物語の行き着く先を誰もが知っていました。「まんぷくヌードルが開発され大ヒットする」という堅固な着地点を。

 だから忙しい時間帯、無駄にバタバタしなくて済んだのでした。そう、正確な時計の代わりとなってくれたのですから。

関連記事

トピックス

ブラジルを公式訪問している佳子さま(写真/アフロ)
佳子さま、外交関係樹立130周年のブラジルを公式訪問 子供たちと笑顔でハイタッチ、花柄のドレス姿も 
女性セブン
「寂しい見た目」の給食に批判が殺到(X /時事通信フォト)
《中国でもヤバい給食に批判殺到》ラー油かけご飯、唐揚げ1つ、「ご飯にたまご焼きだけ」と炎上した天津丼…日本・中国で相次ぐ貧相給食の背景にある“事情の違い”
NEWSポストセブン
来来亭・浜松幸店の店主が異物混入の詳細を明かした(右は来来亭公式Xより)
《“ウジ虫混入ラーメン”が物議の来来亭》店主が明かした“当日の対応”「店舗内の目視では、虫は確認できなかった」「すぐにラーメンと餃子を作り直して」
NEWSポストセブン
家出した中学生を自宅に住まわせ売春させたとして逮捕された三ノ輪勝容疑者(左はInstagramより)
《顔面タトゥーの男が中学生売春》「地元の警察でも有名だと…」自称暴力団・三ノ輪勝容疑者(33)の“意外な素顔”と近隣住民が耳にしていた「若い女性の声」
NEWSポストセブン
山本賢太アナウンサーのプロフィール。「人生は超回復」がモットー(フジテレビ公式HPより)
《後悔と恥ずかしさ》フジ山本賢太アナが過去のオンラインカジノ利用で謝罪 「うちにも”オンカジ”が…」戦々恐々とする人たち
NEWSポストセブン
親日路線を貫いた尹政権を「日本に擦り寄る屈辱外交」と断じていた李在明氏(時事通信フォト)
韓国・李在明新大統領は親中派「習近平氏の接近は時間の問題」、高まる“日本有事”リスク 日米韓による中国包囲網から韓国が抜ける最悪のケースも
週刊ポスト
田中真一さんと真美子さん(左/リコーブラックラムズ東京の公式サイトより、右/レッドウェーブ公式サイトより)
《真美子さんとの約束》大谷翔平の義兄がラグビーチームを退団していた! 過去に大怪我も現役続行にこだわる「妹との共通点」
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《「来来亭」の“ウジムシ混入ラーメン”動画が物議》本部が「他の客のラーメンへの混入」に公式回答「(動画の)お客様以外からのお問い合わせはございません」
NEWSポストセブン
金スマ放送終了に伴いひとり農業生活も引退へ(常陸大宮市のX、TBS公式サイトより)
《金スマ『ひとり農業』ロケ地が耕作放棄地に…》名物ディレクター・ヘルムート氏が畑の所有者に「農地はお返しします」
NEWSポストセブン
6月9日付けで「研音」所属となった俳優・宮野真守(41)。突然の発表はファンにとっても青天の霹靂だった(時事通信フォトより)
《電撃退団の舞台裏》「2029年までスケジュールが埋まっていた」声優・宮野真守が「研音」へ“スピード移籍”した背景と、研音俳優・福士蒼汰との“ただならぬ関係”
NEWSポストセブン
小室夫妻に立ちはだかる壁(時事通信フォト)
《眞子さん第一子出産》年収4000万円の小室圭さんも“カツカツ”に? NYで待ち受ける“高額子育てコスト”「保育施設の年間平均料金は約680万円」
週刊ポスト
清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン