「多分明日もトレーニングはしていますよ。じっとしていられないから、動き回ってますね。ゆっくりしたいとかは全然無い。動き回ってますね」──3月21日、イチローは引退会見で「これからは、野球に費やしてきた時間とどう向き合うか」と聞かれ、平然とこう言った。
イチローと親交のある和田アキ子は、『アッコにおまかせ!』(TBS系)で24日朝に電話で話したことを打ち明け、「何してたの?って言ったら、トレーニングしてるって。試合には行かないけど、健康のためにはトレーニングは必要だって」と会話の内容を披露した。だが、本当に“健康のため”だけに体を動かしているとはにわかに信じ難いだろう。
なぜ、イチローは引退後もトレーニングを続けるのか――。
日米通算4367安打という大記録を打ち立てたイチローの気持ちを理解できるのは、同じような境遇に立つことができた者だけかもしれない。
イチローが尊敬してやまない“世界のホームラン王”である王貞治は、1980年11月4日に引退を表明。会見の最後、王はこう語っている。
〈バッティングは難しい。自分のタイミングで自分のポイントでいかに球をとらえるか、二十二年間やりましたが、つかみきれないまま、きょうを迎えました〉(毎日新聞・1980年11月5日付)
空前絶後と思われる通算868本塁打を放った王でさえ「バッティングは難しい」という言葉を残して、現役生活にピリオドを打った。
引退と同時に巨人の助監督に就任した王は、会見翌日、多摩川グラウンドに姿を見せると、おろしたての圧縮バットを手にケージに入り、40スイングでサク越え5本を記録。現役最後となる東西対抗戦や秋のオープン戦が控えていたとはいえ、引退直後も現役時代と同じように練習に励んだ。