グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(70)が“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクト。渡辺氏は、自然な笑顔を引き出すべく、撮影する人に「一品」を持ってきてもらって、それにまつわるエピソードを聞きながら撮影する。
法政大学総長で江戸文化研究者の田中優子氏(67)が持ってきたのは、芸術選奨文部大臣新人賞受賞の単著『江戸の想像力』。1986年に上梓した初の自著である。
「賞をいただいたことで講演やテレビ出演などの依頼が始まり、私自身の日常が変わったと同時に江戸への注目が急に高まった記念すべき一冊です。今でもこの本に刺激を受けて江戸の研究に入ったという人に出会います」
粋で端麗な着物姿がトレードマークだが、若い頃はジーパン姿で研究に熱中。衣服は単にお洒落ではなく、自分を表現するもの。その意味では思想が変わる度に衣服を変えたインド独立の父・ガンディーが理想と語る。
終活は遺言を毎年書き換え、エンディングノートも認(したた)める。そして物を多く持たないことも。「研究者として困るのは本の多さ。既に2000冊ほどブックスキャンして、いつでも読めるようにデジタル化しました」
何でもとことんやる性分は、脱バンカラで人気を高めた大学改革にも発揮されたに違いなく、それは今後も緩むことなく続く。
【プロフィール】たなか・ゆうこ/1952年、神奈川県生まれ。法政大学総長、江戸文化研究者。法政大学大学院修了後、助教授、教授となり、社会学部長を経て総長に就任。様々な改革で2017、2018年度の大学志願者数は東日本1位。テレビ・ラジオなどの出演も。
◆撮影/渡辺達生、取材・文/スペースリーブ
◆小学館が運営する『サライ写真館』では、写真家・渡辺達生氏があなたを撮影します。詳細は公式サイトhttps://serai.jp/seraiphoto/まで。
※週刊ポスト2019年4月5日号