今でこそ、高齢者の口腔ケアの重要性が叫ばれ始めたが、ひと昔前までは“歯医者は痛くなったら行くところ”。できれば行きたくない。
老親のケアの中でもつい後回しにしがちの歯科。でも口はおしゃべり、食べる喜び、栄養摂取など生きる上で重要で、不可欠な場所だ。慎重に丁寧にケアの方法を探りたい。日々、多くの要介護者をケアする訪問歯科衛生士の篠原弓月さんに聞いた。
◆食べかすが自然に処置されなくなる高齢期
健康な若い世代は、たとえば昼食を食べた後、歯を磨く機会を逸したとしても、いつの間にか口の中はきれいになる。歯間などに何かが挟まって、こっそりつまようじを使うことはあっても、食べかすが残ることはない。
「それは口腔機能が正常に働いているからです。食事中はもちろん、食べた後に口の中に食べかすが残っても、舌や頬の絶妙な動きや唾液で流されてきれいになります。高齢になりこれらの機能が衰えると、食べかすや歯垢などの汚れが残りやすくなります。これは本人や周囲の人も気づきにくいのです」(篠原さん、以下同)
歯科衛生士としてケアをする際、食べかすなどが残っている箇所からも、口腔機能の衰えをチェックするという。
「今や国民病ともいわれる歯周病。自分の歯が残っている高齢者の多くも、虫歯や歯周病があります。また、高齢になると歯並びがずれてくることがあります。歯周病が原因で歯が動いたり、歯が抜けたまま放置することで残りの歯がすき間を埋めるように動いたり。歯並びのアーチを支える舌や頬の力が衰えて歯が内側に入り込むなど、さまざまな原因で歯並びが悪くなり、歯磨きも行き届かなくなるのです」
このほか感覚が鈍り痛みを感じにくくなったり、認知症などで不具合をうまく伝えられなくなったりすることもあるという。家族が注意して見る必要がありそうだ。
◆口を開けなくてもわかる口腔内チェック方
まずは口元や話し声からもわかるチェックポイントを聞いた。口腔・嚥下機能の低下や入れ歯などの不具合があるかどうかの目安になる。
●しゃべりにくそう→口腔内が乾くと、滑舌も悪くなる。
●食事量が減る→硬いものを残す、食べこぼす、食欲減退。
●むせる→食事中や、会話中に自分の唾液でむせることも。
●入れ歯がガタガタ→経年により合わなくなることも多い。
●ガラガラ声→嚥下機能の低下で唾液がのどにとどまる。
●口臭→歯磨きが疎かになると歯垢や舌の汚れがにおう。
「総じて高齢になり唾液の分泌量が減ると、口の中が乾いて動かしにくくなるのです。自然と口数が減りがちですが、逆に話したり、大きな声で歌ったりして、舌や口をよく動かすことで、唾液の分泌を促すこともできます。たくさん話しかけて、楽しくおしゃべりをすることも、家族にできるケアなのです」