「私は武士の娘です!」の決めゼリフをもう聞けないと思うと、あんなにウザかった頭カチコチの頑固母なのに、寂しくなるから不思議なもの。3月30日、NHK連続テレビ小説『まんぷく』が最終回を迎えた。ヒロインの母親、鈴役・松坂慶子(66才)の“クセの強い”キャラからして、最終回までに何かやらかしてくれると期待していたら、やっぱりやってくれた。
「生前葬を挙げたいの。生きてるうちに、みんなに“ありがとう”と言いたいのよ」
はァ? 死んでもいないのに葬式やるの? ヒロインの福子(安藤サクラ・33才)も、視聴者も、鈴の突然の提案にポカーン状態。神妙な顔をして白装束を着込み、どこからか手に入れた棺に自分の足で入っていく鈴の姿には、「おいおい、冗談でしょ」と吹き出してしまうのだが――これが、終わってみるとなんとも感動的なのである。
3月28日放送回は、15分間まるまる「鈴の生前葬」シーンなのだが、視聴率は20%超。お茶の間に笑いと涙と清々しい気持ちを届け、「神回」と話題になった。
“死んだふり”の鈴に向かって、友人が弔辞を読んだり、娘婿の萬平(長谷川博己・42才)が感謝の言葉を述べたり。集まった面々が、鈴に対する素直な気持ちを吐露すると、あんなに意固地だった鈴もまた、棺桶からムックリと起き上がって涙を流しながら本音を語り出す。生前葬を終えた鈴の感想は「もう思い残すことはありません。これから私は観音様になります」。この世への未練をサッパリ捨てて、そんなふうに思えたら、きっと幸せだろうなァ…。
過去にはテレビのバラエティー番組の延長で、ビートたけしやテリー伊藤、SMAPなどが“生前葬企画”をやったことがあるが、どれも本格的な生前葬とは言い難い。
『子供に迷惑をかけないお葬式の教科書』(扶桑社新書)の著者で、大手葬儀社に勤める赤城啓昭さんが語る。
「実際、年間に数件は『真剣に生前葬をやりたい』という相談を受けます。先日、関西在住の70代男性の生前葬をコーディネートしました。自宅に布団を敷いて、本人に寝ていただいて、読経のCDを流す。参列したのは奥さんと子供たち、きょうだい、友人数人でした。最初は懐疑的だった奥さんも子供の弔辞を聞いているうちに涙を流し、“死ぬことを改めて真剣に考えさせられた”そうです。終活としては、大成功だったと思います」
多くの大手葬儀社では、「納棺体験」を催している。葬式を知るためのセミナーの一環だが、白装束を着て棺に横たわると、自然に「死」と向き合えて、感極まって泣き出す人も少なくないという。
『まんぷく』の鈴いわく、「いつ死んでもおかしくない。でも、それではあいさつができない」。だから、生あるうちに、肉親や親しい友人たちと共に人生を振り返り、感謝の気持ちを伝えられれば、悔いなく人生を終えられるのではないか──「武士の娘」効果で、生前葬に一大ブームがやってきそうな予感だ。
※女性セブン2019年4月18日号