回復する見込みはもうない。それでも一日でも長く生きるために、苦しい治療を続けるか否か。物議を呼んでいる東京・福生病院の「透析中止死亡」の問題が投げかけたのは、「延命治療をやめる」という選択の難しさだった。いつ、どのようにすれば、親や自分が後悔しない死に方を選ぶことができるのか。
そして、実際に病気になってから、延命治療を受けるか断わるかを判断する場合はどうなるのか。
病気が進行し、医師から患者が終末期を迎えたと判断された場合には、一般的には病院で延命治療の「同意書」や「確認書」などが準備される。その文面には終末期の延命治療についての説明があり、患者本人の意思表示か、家族による患者本人の推定意思表示がある場合は、延命治療行為を差し控えるなどと記載されている。
この文書で延命治療を受けないという意思表示をすることができるが、すでに本人の意思が確認しにくい状況だったり、突然のことで家族の意見がまとまらないケースもみられる。78歳の夫を脳梗塞で亡くした妻が打ち明ける。
「夫は生前、『もしもの時は延命治療はいらない』と言い、リビング・ウイル(終末期医療における事前指示書)を準備しようとしていました。ところが突然の脳梗塞で倒れると私も家族も『一日でも長く生きてほしい』としか考えられなくなりました。医師から延命治療について説明された時も、助けてほしい一心で、あらゆる措置をお願いしていました」
事前に延命治療を拒否する文書を準備していたり、病院が準備した延命治療中止の確認書にサインした後でも、「やっぱり生きたい」と心変わりすることはある。終末期医療に詳しい長尾クリニック院長の長尾和宏医師はこう解説する。